考察『光る君へ』32話 『源氏物語』を読みふける帝(塩野瑛久)の表情!彰子(見上愛)の手を取り炎から連れ出した先、お互いを想う心が芽生えないはずがない
晴明は天に昇った
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)危篤。須麻流(DAIKI)が一心に祈る声を背にしての、道長との別れの場面がよかった。関わってきた数多の権力者たちの誰とも違い、世を平らかに治められるなら自分などはどうなってもいいという道長に、真の統治者としての本領を見出して支え続けた晴明。陰陽師として政の闇を知り尽くした者ゆえに、少しでも善なる部分を持つ者にこの国を任せたいと願い、光を探し求めた末の結論だったろう。 最期の瞬間まで見つめて世の動きを読み続けた満天の星々に迎えられて晴明は天に昇った。須麻流も共に旅立ったのか、はっきりとは描かれない。しかし、この主従は確かに生涯一心同体であった。新しい安倍晴明像を演じたユースケ・サンタマリア、大河ドラマに障がいある俳優として新たな道筋を拓いたDAIKIに拍手を。お疲れ様でした。
よく言ったぞ、道綱!
伊周を陣定(じんのさだめ)に復帰させた帝をお諫めできなかった道長を責める右大臣・顕光(宮川一朗太)に、道綱(上地雄輔)が「左大臣様を責めるのはどうなのですか」「右大臣様がお諫めしてもいいではありませんか!」。よく言ったぞ、道綱!陣定での発言に中身はないが、弟を思うお兄ちゃんとしての言葉を彼は持っている。 皆が反発を覚えているらしき、伊周の復権……不穏な空気漂う内裏を、更に皆既月食の闇が覆う。ひとり『源氏物語』を読みふける一条天皇の表情は、待ちに待った連載作品の続きに熱中する読者の顔である。こんな帝を、これまで見たことがない。一瞬の場面だが、塩野瑛久の巧みな演技が印象的だった。 そこに上がる火の手……敦康親王を守ろうと藤壺に駆けつけた帝が目にしたのは、一人佇む彰子だった。 「そなたは何をしておる!」 「お上はいかがなされたかと思いまして」 誰もが月蝕に怯えて隠れ、火災でパニックになって我先にと逃げ惑うなか、真っ先に敦康親王を逃がし、帝の身を案じて残っていたのだ。なんていじらしい……! 吊り橋効果とはよく言われるが、そういった心理とはまた別に、この混乱においても誠実さを失わない彰子、そして初めてその手を取り肩を抱いて火事場から連れ出してくれた帝。お互いを想う心が芽生えないはずがないだろう。 少女漫画のワンシーンのようなピンチ脱出場面だったが、帝と中宮がふたりでいた、共に避難していたということは『御堂関白記』と『小右記』に記されている。そしてこの時に限らず、内裏で帝や后の周りに誰もいない状態がちょいちょいあったのは『権記』『紫式部日記』を読むとわかる。またまたぁ、勝手にそんな場面作っちゃって! と思ったら史実だった……というのは大河ドラマあるあるだ。 帝と中宮、親王は無事だったが、この火事で三種の神器のひとつ、八咫鏡(やたのかがみ)焼失。八咫鏡、草薙剣の実物はそれぞれ伊勢神宮と熱田神宮にあり、帝の傍にあるのは形代(かたしろ)なのだが、正統な天皇の証を失うということ自体がショッキングだ。ゆえに、 帝の退位を望む者は色めきたつ──気持ちは察するけれど、東宮・居貞親王(いやさだしんのう/木村達成)は、そんなあからさまに喜ばないでほしい。
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