サウジ合弁・住友ファーマ…住友化学、巨額赤字要因の改善策が実を結び始めた
アラムコと迅速合意
住友化学は構造改革を通じ、次の成長に向けた歩みを着々と進める。不振だったサウジアラビア国営石油会社サウジアラムコとの合弁会社「ペトロ・ラービグ」の株式の一部売却などを合意。大きな赤字要因だった子会社の住友ファーマも合理化を経て再成長の兆しもある。うみを出しつつ、平行して農薬や電子材料といった成長領域の強化にも取り組む。中長期を見据えた新たな事業体制の構築が本格化する。(山岸渉) 【写真】住友ファーマの成長ドライバー 「最大の経営課題で抜本的構造改革の本丸の2テーマ」(住友化学の岩田圭一社長)として巨額の赤字要因になっていたラービグと住友ファーマ。手を打ってきた改善策が実を結び始めた。 住友化学はラービグに対し債権放棄などはするものの、出資比率は37・5%から15%とすることでアラムコと合意。5月にアラムコとの共同タスクフォースを結成してからのスピード決着だった。 みずほ証券エクイティ調査部の山田幹也シニアアナリストは「企業規模から考えて素晴らしい決断で、よくまとめた。ラービグのシニアパートナー(共同経営者)の地位と、ライフサイエンス分野などの全てをどんな状況下でも勝ち切るだけの経営資源を常に投入し続けるのは難しいだろう」と語る。 今回、住友化学とアラムコが互いの立場を考慮した結論だったようだ。ラービグをいかに持続的な成長につなげるかを捉え、アラムコがラービグへの関与を高めることで収益性向上に向けた施策を早く実行できる。住友化学はラービグの持ち分比率が下がることで業績への影響を緩和できる。 一方、住友ファーマは北米での人員削減など合理化策を実行してきた。その効果もあり、2024年4―6月期の当期損益は黒字に転換。構造改革などは「道半ば」(岩田社長)としつつも、一定の改善や製品群には明るい兆しも見せる。 岩田社長はかねて「(事業の再構築など)再興戦略と、成長戦略の二つで抜本的な構造改革」と強調。本丸のラービグと住友ファーマで一定の成果も出てきたことで、さらに成長戦略に注力できる体制は整ってきた。当面の成長ドライバーとして挙げるのが、農薬などの農業関連と、電子材料関連のICT(情報通信技術)分野だ。両分野には30年まで戦略投資のリソースを集中させる考えだ。 農薬は多様な製品群が強みで、グローバルで環境負荷の低い農薬の需要が増す中、天然物由来の農薬などの「バイオラショナル」に注力する。ICTは強みのディスプレー材料が有機EL(OLED)向け需要を想定し、30年に向けて収益を支える存在だ。半導体向けでは高純度ケミカル(精密洗浄に用いる化学品)やフォトレジストの増産など体制強化にも余念がない。 今後、10月には農薬や農業資材などの「アグロ&ライフソリューション」、電子材料の「ICTソリューション」といった4事業部門に再編する。医薬関連は住友ファーマと再成長への戦略を練る。「当社が主導し、再生・細胞に関わる治療薬や開発製造受託(CDMO)について具体的な枠組みは24年度中に固めたい」(岩田社長)。石化関連は環境負荷低減の技術開発に注力。新たな付加価値の創出へ事業部門の再編で今後の成長モデルの基盤を作る。 さらに25年3月には新中期経営計画の公表を予定。長期的に社会課題の解決に貢献するソリューションを提供する企業「イノベーティブ・ソリューション・プロバイダー」への変革を目指す中で、一連の構造改革を通じて持続可能な成長の姿をより鮮明にする。