黒沢清×菅田将暉、映画『Cloud クラウド』が描く「現代」という恐怖
The fear, The terror, The horror of the modern age.
日本映画のホラー、サスペンスを牽引してきた映画監督、黒沢清。最新作の主演として指名したのが、コメディからラブロマンス、アクションまで多彩な演技を見せる菅田将暉だ。ふたりの鬼才が見つめる映画界の現在とは? 【動画】映画『Cloud クラウド』予告編 【9月27日(金)全国公開】
──『Cloudクラウド』は黒沢清監督待望、アクション満載のサスペンススリラーということでたいへん楽しく拝見しました。監督がスティーヴン・スピルバーグ監督をはじめとする年代のアメリカ映画やアクション映画に影響を受けていることはこれまでもインタビューなどで話されていますが、実現するにあたってのチャレンジはいかがでしたか? 黒沢 まず、脚本を作るのがひと苦労でした。最終的には生きるか死ぬかのアクションに持っていきたいと思ったんですが、この現代の日本で、しかも"やる側"も"やられる側"も普通の人にする、というのがやりたかったことのひとつでしたから。刑事とかヤクザを出すと簡単にアクションになるんですけど、普段は暴力とはまったく関係のないところにいる人々が、最終的には戦闘状態に陥る。どうやったらそうなるのかなっていうのを、小難しい理屈なく、素直にそこに到達するにはどうしたらいいだろうというのを試行錯誤しました。それで転売屋とか、インターネットを通じて匿名の人々が集まって犯罪を犯すといった、現代でも非常にリアルな設定を作ることで、アクションに持っていけたと思っています。 菅田 脚本が本当におもしろくて、あっという間に読めました。動きについても書かれていたのでイメージしやすく、本当に映画を観ているのと同じくらいスリリングでした。読んでいて心地よかったです。この怖さとおもしろさが実際に映像になったらどうなるんだろうと楽しみになりました ──これまで読んだ脚本と決定的に違ったのはどんなところですか? 菅田 感情的なト書きが少ないこととかですかね。 黒沢 読んでも登場人物の感情がほとんどよくわからない脚本ですからね。セリフも、どんな感情でそれを言うのか、ちょっとわからないことがあったかと思います。 ──意図的にそう書いているのですか? 黒沢 意図的というわけではないんです。これはなかなか信用してもらえないかもしれませんが、僕自身もわからないんです。俳優が一体どういう感情でそのセリフを言うのかわからないから、書いていないんです。自分でも想像できるところは書いているはずなんですが、書いてないところは、わからないので俳優に任せます、ということなんです。 菅田 疑問に思ったことは監督に聞いたこともありますが、でも、脚本に書かれすぎると演じにくいこともあるんです。"ここで振り向いて"とか書かれていると、"ここで振り向かなきゃいけない"と思うじゃないですか。"振り向くってことは背を向けているんだ"とか。ある意味、黒沢さんの脚本はわからないことが多かったんですが、撮影現場に行って初めて"ああこういうことだったんだ"というような、自分で発見しながら演じていくのがエキサイティングでした。 黒沢 それは狙いというわけではなく、映画作りってそういうことだなという。僕の力なんて小さいもので、いろんな人の力や能力が合わされるのがまさに映画の現場。僕が下手なことを言うより、俳優にお任せしたほうがいいことが多いのも経験上わかっている。そこがまさに映画だということです。 ──というと、この人なら何も言わなくても演じてくれるという信頼感や期待感を持ってキャスティングされた? 黒沢 それは理想ですが、今回もちろん菅田さんを含めて主要な人たちほとんど初めてご一緒する方々でしたので、不安はないとは言えませんでした。撮影現場で、「できません」って言われたらどうしようかなって。 菅田 「できません」って言われたことはあるんですか? 黒沢 まれにいるんですよ。絶対人間にできないようなことだったら仕方がないんですが、「できるはずだよな」と思ったり(苦笑)。今回はそういうこともなく、皆さん、特に菅田さんはいろいろな現場で経験をされていらっしゃいますから、柔軟に対応してくださった。それでも菅田さんの役は難しかっただろうとは思います。先ほど言いましたが、"普通の人"の設定ですから。普通の人っていちばん演じ難い役です。普通の人が何気ない日常を送っているっていうならまだしも、このような突飛な状況に陥っていくのは。"言うは易し、演じるのは難し"だったと思うんですが、お見事でした。