platform 3(東京) 3人で東中野のオルタナティブ書店「人が集まれる場所にしたい」
各地のこだわりの書店を訪ねる連載「本屋は生きている」。今回は東京・東中野の「platform3」へ。JR中央線の夜の車窓から見える明かりに惹かれ、ビルの階段を4階まで上ったところに、海外のイベントで意気投合した3人が「人が集まれる場所にしたい」と共同で運営する店がありました。 【写真】「platform3」店内の様子はこちら
電車に乗りながら外を眺めている時に、気になる建物や場所と出くわすことは、誰にでもあると思う。私も子どもの頃は地元・群馬から東京まで行くまでの長距離電車で景色を見過ぎて、おかげで動体視力が鍛えられたものである。 ある日の夜、総武線に乗っていると、東中野駅あたりでなんとも柔らかな明かりを灯すビルが視界に入った。この街で映画を見る時はほぼ日中に行っていたので、それまで気付いていなかったのだ。 せっかくだし、近くまで行ってみよう。後日、明かりの元を探しに東中野駅で下車した。 駅の階段を降りて目の前にあるビルのようだ。その入り口にある赤い看板には、本の文字もある。えっ本屋なの? ある階は黄色、別の階はグリーンと、クレヨンのような原色のドアを眺めながら階段を昇る。4階にその「platform3」はあった。 赤い扉をそっと開けると、潟見陽さんとともまつりかさん、丹澤弘行さんの3人が迎えてくれた。潟見さんはこれまで何回か、クイアや反差別関連のイベントなどでお会いしていたけれど、改めてご挨拶。聞けば3人で共同運営しているそうだ。
ゆるいつながりが、ソウルでかたい絆に
グラフィックデザイナーの潟見さんは新宿区大久保の自宅で、loneliness booksという本屋を週末限定&予約制でオープンしていた。 一方、客として通っていた丹澤さんは2022年、ともまつさんとの出版ユニット・(TT) pressでインタビューZINEを制作することになった。自分たちが話を聞いてみたいのは誰なのか。浮かんだのは作家で翻訳家の安達茉莉子さん、マンガ家&イラストレーターのももせしゅうへいさん、そしてデザイナーで書店主の潟見さんだった。 「作る段階ではテーマは決めていなかったのですが、3人に話を聞いていくなかで、 寝る前にふと考えてしまうようなこと、孤独や心配事の話がよく出たので『眠れない夜』という意味を込めて『Sleepless in Tokyo』というタイトルのZINEを作りました」(丹澤) この「Sleepless in Tokyo」は(TT) press初のZINEとして、2023年に刊行された(ちなみに安達さんは生活綴方 &ひるねこBOOKS と、これまでの連載でも紹介しているので、個人的にもオススメしたい)。それぞれ違うコミュニティーで活動していた3人のつながりはその後もゆるく続いていた。そんな3人に2023年5月、ちょっとした転機が訪れた。 「ソウルで毎年、韓国タイポグラフィー学会というグラフィックデザインの学会が開催されるのですが、2023年のテーマが『クイア・ジェンダーとタイポグラフィー』だったので、ワークショップのプレゼンターに招かれたんです。当初は韓国のデザイナーたちと『クイアと孤独』をテーマにしたZINEを作るワークショップを企画していたのですが、丹澤さんが店に来た時にそんな話をしながら『来る?』って聞いたら2人とも来て(笑)。だから日韓の参加者でZINEを作るワークショップに変更して、一緒にソウルに1週間ぐらい滞在したんです」(潟見) タイポグラフィー学会で出会った人たちをテーマに、(TT) pressは第2弾ZINEを制作したが、まだ「本屋をやろう」という話は出ていなかった。しかし2024年、コロナ禍も落ち着き、場所を広げたいと思っていた潟見さんが、いろんな人に共同運営の声をかけていて、その中のひとりが丹澤さんだった。丹澤さんは「ともまつさんと一緒だったらできるかもしれない」と思い、潟見さんにやってみたいと持ちかけた。 「なんだか取ってつけたみたいですけど、ワークショップの時にこちらから投げたボールの返球が返ってきた。そんな感じに思えたんです」(潟見) 「やれるかなあ、やれるならやろう、ぐらいの感覚でした。今もそういう気持ちです」(ともまつ)