「なんで死なせてくれないんだっ」自ら包丁でお腹を切ろうとした30代ひきこもり女性の過去からの再生…「私の生きてきた形跡は無駄になってない」と始めたあることとは
闇の気持ちを肯定され回復に向かう
そのまま精神科病院に強制入院となり、統合失調症と診断された。詳しい検査をして処方された薬が効いて、ようやく幻覚、幻聴などが消えた。1年弱の入院期間に、チーム支援を受け始めたことで回復に向かったのだという。 「入院中も、人を巻き込んでもいいから人生を終わらせたいと邪悪なことを考える私は、やっぱり死んだほうがいいんじゃないか、みたいな負のループに陥っていたんですが、カウンセラーさんが言ってくれたんです。闇の気持ちも光の気持ちもどっちもあっていいよって。両方肯定してくれたので、初めて自分を受け入れられたんですよ」 カウンセリングと並行して、まず「楽しい」と思えることを探した。それには昔好きだった音楽が役に立ったという。 認知行動療法を受けて「客観視」を育てる訓練もした。白石さんはいじめのトラウマで人への恐怖心があったが、例えば、「この人に怒られた、嫌われた」と感じることがあれば詳細に思い出して書いていく。すると、「嫌い」という言葉は言われてない、怒ったのではなく単なる注意だったのではないか、など被害妄想と現実の切り分けができるようになっていった。 精神障害者保健福祉手帳を取得して障害年金の受給を開始。退院後はカウンセラーが主催する居場所などに参加し、他人と一緒に作業する練習を何度もした上で、カフェでアルバイトをすることにした。 「厳しく指導する上司がいて、『やっぱり人は怖い』ってなりかけたんですけど、福祉のチーム支援も受けていたので、前とは違いました。何かあるたびに泣きながらカウンセラーさんやソーシャルワーカーさんに相談して、これは客観的に見たらこうかもしれないねって確認できたので、ホント、全然違った」
母に謝罪され、怒りをぶつける
白石さんがゆっくりと回復に向かっているころ、カウンセリングの効果が出てきたのか、母親も変わりつつあった。 リビングで母と2人コーヒーを飲んでいるとき、母親にこう言われたのだ。 「昔、あなたのことをよく叩いていたのは、虐待だったわね。お母さんが悪かったわ。ごめんなさい。あなたのことを人形みたいに、自分の所有物のように思っていたのよ」 謝罪の言葉を聞いて、白石さんは溜まった怒りを吐き出すことができたという。 「やっぱり昔は憎しみが強かったから、なんであんなに当たり散らされなきゃいけなかったのって、すごい怒りが止まらなくて……。母を恨む気持ちもありますよ。 でも本当に放り出されたことは1度もなかったし、私を見捨てなかった。愛情は深い親だったというのはわかるので、親を愛する気持ちもあるんです。両方が混在していて。ホント、感情って複雑ですね」 それ以来、母親とさまざまなことを話すようになり、母の置かれた事情や時代背景も理解することができるようになったそうだ。 「母も孤独だったんですね。頼れる親も友だちもいない場所で子育てして、社宅だから他の子とも比べられて、ストレスは相当強かったと思います。だから、私たちにきつく当たったのかなって」 自分の気持ちを言葉にできるよう表現力も磨いた。それまで、ほとんど育児に関わってこなかった父親とも退院後は話すようになったのだが、「お父さんも人が怖いぞ」と軽く言われたので、こんな風に説明をした。 「私の怖さっていうのは、相手が目の前で包丁を持って立っていて、危害を加えてくるぞと体中から汗がブワっと噴き出してきて、体温が下がってお腹が痛くなるくらいの怖さだよ」 それを聞いて父親は深刻さを理解し、謝ってくれたという。 「2人とも、『残りの人生は咲良のサポートに使いたい』と言ってくれて、すごく幸せです。もうホント、見る景色、ファインダーが全部丸ごと変わったような心地ですね」
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