小林悠が掲げた目標と揺れる胸中「川崎フロンターレで引退するのが一番ですけど…」「若い選手には響かないのかな」【独占取材】
●間近で見た大久保嘉人の凄さ「歴代1位は当然だし…」
「嘉人さんのすごいところは、ボールを要求するところがジュニーニョよりもすごく強かったというか、ゴールを決める自信があったからこそ、自分にプレッシャーをかけてでも、ベテランだろうが若い選手だろうが誰にでもパスを出せと言っていた。自分もこうならなきゃいけないと思わされました」 通算得点ランキングの上位10傑で、大久保がキャリアを通じて放ったシュート総数は1141本と群を抜いて多い。他に大台を超えているのは、152ゴールで小林のすぐ上にランクされているマルキーニョスの1066本だけ。インタビュー時点で729本だった小林は、間近で見ていた大久保の鬼気迫る姿を思い出す。 「練習でも居残って、誰よりも多くシュートを打ち続けていました。僕も何回かつき合いましたけど、これでは自分が壊れると思ってやめました。あの練習量を見れば、僕を含めてみんながパスを出すようになりますよね。歴代1位は当然だし、嘉人さんのすごいところは得点を取る他にも何でもできるところなんですよ。野性的な動きもできるし、周りも使えるし、サッカーIQも高い。本当にすごい選手でした」 大久保が川崎を去った2017シーズン。30歳の節目を迎えた小林は再び1トップを任され、現時点で唯一となるリーグ戦全34試合出場を果たす。そのうち途中出場は一度だけで、2951分を数えたプレー時間も自己最長で、リーグ戦優勝に加えて個人では得点王とリーグMVP獲得と最高のシーズンを送った。 その後もジュニーニョが教えてくれたエースの矜持に、大久保が示した、いい意味でのエゴイズムを融合させながら2021シーズンまで6年連続で2桁ゴールをマークした。しかし、年齢を重ねてきた過程で途中出場の回数が先発のそれを上回るようになり、2022シーズン以降はゴールも1桁にとどまっている。
●「立場的に難しい」「若い選手たちには響かないのかな」揺れるベテランの胸中
川崎も2022シーズンは無冠に終わり、昨シーズンは天皇杯を制したものの、今シーズンも再び無冠に終わった。唯一のタイトル可能性を残していたYBCルヴァンカップでも、10月に行われたアルビレックス新潟との準決勝で、アウェイの第1戦で1-4、ホームでの第2戦では0-2と敗れて敗退した。 そして、第2戦後にホームのUvanceとどろきスタジアムに、稀有な光景が生まれた。場内を回った川崎の選手へ降り注いだ、過去にほとんど聞かれなかったブーイングを小林は当然と受け止めた。 「唯一、タイトルを獲得できる可能性が残っていた大会なのに、振り返れば第1戦がすべてだったというか、タイトルがかかった試合でこれか、と思えた入り方であり、失点の仕方だったので」 53分までに大量4ゴールを奪われ、瀬川祐輔のゴールで一矢を報いるのが精いっぱいだった第1戦で、小林は最後までベンチで戦況を見つめていた。自らが置かれた状況を踏まえて、複雑な胸中を明かす。 「立場的に難しいんですよね。やはり試合に出ていないベテランの選手が、昔を知っているおじさんみたいにああだ、こうだと言うのはどうなのかな、と。もちろん必要なときもあるし、いまの若い選手たちには響かないのかなと思う場面もある。自分が新潟との第1戦に出ていたら、タイトルがかかっている試合だぞともっと言っていたと思し、もちろん他の試合でも立場的には言ってはいるんですけど……」 海外を含めた移籍など、新陳代謝が宿命づけられているサッカー界で川崎も例外ではない。2017シーズンの初タイトル獲得を知る選手は、今シーズンにおいて小林の他にはわずか5人だった。 「そのなかで(大島)僚太はあまり声を発するようなタイプじゃないけど、戦術面を含めて、サッカーに関して僚太にいろいろと聞く中盤の選手や若い選手はけっこう多いんですよ」 こう語った小林は、チーム内で自身が果たそうとしてきた役割をこう振り返っている。