貴重な都市の緑への関心喚起した横浜・上郷猿田地区の開発問題
西側は、現在82人(2014年時点)の地主の委託を受けた東急建設の管理下となっており、基本的には立入禁止となっている。放置された緑は雑草が好き放題に延び、人の歩く道は整備されていない。全体的にぬかるんだ湿地で、足場はかなり悪い。
現場に詳しいNPO法人「ホタルのふるさと瀬上沢基金」代表の角田東一さんによると、1960年代頃は「定期的に人の手が入って整備しており、暮らしのなかに欠かせない里山として、間伐した樹木は炭焼きや薪などとして利活用されていた」という。
道路を越えて東側へ降りると、散策する人の姿がちらほらと目に入る。このエリアは三方を山に囲まれた谷戸の地形となっており、傾斜地から水が谷に向かって流れ込むため、湿地や水路、農耕地などが広がる。縄文土器や、約160万年前の地層跡など、大学の研究対象にもなりうる歴史的遺跡が存在し、これらを含む東側の大部分のエリアについては、将来的には東急建設が横浜市に譲渡または売却し、市が特別緑地・公園として保全する計画となっている。
30年に渡って揺れ続けた地域
東急建設が同地区の土地取得を開始したのは、1980年代にさかのぼる。初めて開発計画が正式に申請されたのは、1992年。この時はバブルが弾けたこともあり、計画は白紙となった。 2007年、東急建設は緑地面積約21ヘクタールの開発計画を都市計画提案制度により再度市に提出した。これには反対運動により9万を超える署名が集まり、2008年には既存の樹林地を大幅に改変してしまうことなどを理由に、横浜市都市計画提案評価委員会が提案を否決した。 2011年に開発計画が再度浮上すると、2014年、東急建設は前回の計画案から開発面積を大幅(緑地面積の3割、12.5ヘクタール)に減らした「栄区上郷猿田地区における都市計画提案書」を打ち出した。
この計画に対しても、反対署名は11万7千筆集まったが、説明会・公聴会・都市計画評価委員会を経て2016年、市は「市街化調整区域内における乱雑な土地利用」の可能性を配慮し、緑の永続的な保全を課題に挙げた上で、本計画を「総合的に地区の将来を見据えつつ、緑地保全とのバランスに配慮した計画と判断」し、開発計画案を受け入れた。 東急建設が東側の緑地保全に対する具体的な方法として挙げた、地域を円海山へ続く森へとつなげる「グリーン・ゲート・ゾーン」(公園や公益施設、水辺の環境資源の整備や活用)の設置計画など、緑地保全を前面に出した計画内容が評価された形となった。