中国と日本で学んだ一流のAIエンジニアは、なぜ中国の高給企業よりもソニーを選んだのか?
■失敗こみで、若手にやらせてみる 楊の話から見えてくるソニーの若手の働き方は、すこぶる興味深い。表情にも、充実感がみなぎっている。ソニーの働く環境は、「成長実感」を得るには十分なのだろう。なぜか。 「ソニーの働き方は自由だと感じました。もちろん、仕事に締切はありますが、やりたいと手を挙げれば任せてくれる。明らかに経験が足りない若手でも、失敗もこみでやらせてくれる、そういう懐の広さを感じるんです」 成長実感を持たせるために、経験不足だろうが、失敗しそうだろうが、まずはやらせてみる。トライアンドエラーを繰り返しながら、次のステップへと進むのだ。 楊も、手を挙げた1人である。入社3年目に、厚木から部署ごと品川のオフィスに異動してきた。この頃、やってみたいことがあった。 「AITRIOS(アイトリオス=エッジAIセンシングプラットフォーム)のプロジェクトで、インテリジェントビジョンセンサーの『IMX500』に、人間の骨格を検出するAIモデルを搭載したいと思ったんです。当時はまだ前例がなく、できる保証がない状態でしたが、個人的には、そのモデルを搭載できるところまで、絶対にもっていけると思っていました」 「IMX500」に搭載するには、AIモデルは一定の条件をクリアする必要がある。しかし、人間の骨格情報を取り出すAIモデルは、その条件をクリアしていなかった。搭載できるようにするためには、プログラムに手を加えたり調整したりして最適化を図る必要があるが、しかし、彼女は、そのプロセスをこなして条件をクリアし、搭載できると感じていた。 そこで、上長に直談判した。 「条件はそろっています。やればできると思います」 「じゃあ、やってみてもいいんじゃないか?」 背中を押してもらう形で、楊の挑戦は始まった。 楊の構想が実現すると、何ができるようになるのか。たとえば、「IMX500」を搭載したカメラを老人ホームの部屋に設置した場合、カメラに映る範囲内で人が転ぶと、骨格情報を取り出すAIが吸い上げた情報から「人が転んだ」ことが認識され、介護スタッフルームにアラートが表示されるのだ。 結果、転倒を検出するような使い方のほか、大勢の中から姿勢が悪い人を見つけたり、進入禁止エリアに手や足が入ったことを検知するなど、さまざまな用途に応用できる可能性が広がった。 「各方面のエキスパートの方に助けていただきながら進めました。最終的に『IMX500』に搭載したAIがきちんと動いたときは、私のチームだけではなくて、ほかのチームのメンバーも喜んでくれて、本当にうれしかったですね」 と、楊は振り返る。 ◯片山 修(かたやま・おさむ)/経済ジャーナリスト。2001年から2011年まで10年間、学習院女子大学客員教授。 著書は60冊以上。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)8万部のベストセラー。近著に『ソニー 最高の働き方』(朝日新聞出版)。中国語、韓国語への翻訳書多数。
片山修