中国と日本で学んだ一流のAIエンジニアは、なぜ中国の高給企業よりもソニーを選んだのか?
そしてまた、その文化に惹かれてソニーを選んだ楊のような人材が活躍することで、優れた文化が引き継がれていく。正のスパイラルができあがるわけだ。 ■優秀な人材が、数年であっけなく辞めてしまう理由 近年、人事担当者が頭を悩ませるのは、せっかく優秀な人材を採用しても、定着率が低いことだ。数年であっけなく辞めてしまうケースが少なくない。 かつて、離職の原因は、長時間労働や心理的な負荷など、ハードな職場環境にあったが、近年は、コンプライアンス強化により、職場環境は改善されている。にもかかわらず、社員が辞めていく。つまり、社員が辞める原因が変わってきているのだ。 背景にあるのは、価値観や働き方の多様化の進展だ。一生同じ会社に勤め続ける時代はとっくの昔に終わっている。もはや、終身雇用は遠い昔の話である。 また、最先端技術の専門化、複雑化、高度化が進み、かつてのようにOJTで部下を育てる場面は減った。フラットな組織文化や、社員の主体性が重視される傾向から、以前のように「俺についてこい」という強いリーダーシップも求められなくなっている。 40代、50代が、こうしたかつての職場の常識をアップデートできないままでいると、思いもよらない理由や感覚で、ある日突然、若い世代に会社を去られる。 なかでも、若者が早期に退職してしまう原因の1つが、「ここにいても成長できないのではないか」という焦りや、不安だといわれている。置かれた環境で、いますぐに成長できないと感じれば、あっという間に辞める。それを防止するには、彼らがやりたい仕事、刺激的な仕事を与えて「成長実感」を持ってもらわなければならない。それが、優秀な人材を企業に引き留める最善策だ。 ソニーグループ執行役専務で、人事を担当する安部和志の言葉を借りれば、「社員は、会社が自分にとって成長し、挑戦する場としてふさわしいかを問い続ける」という。上昇志向の強い若い世代のほうが、その傾向は強いかもしれない。 その意味で、楊にとっては、ソニーの職場は刺激的だった。 「変化のスピードが速いので、それについていくのにいちばんエネルギーを使っています」 と語る。