映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』人工妊娠中絶が違法だった時代の女性の苦難
数々のメディアで執筆するライターの今祥枝さん。本連載「映画というグレー」では、正解や不正解では語れない、多様な考えが込められた映画を読み解きます。今回は、人工妊娠中絶が違法であった時代の女性たちを描いた『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』です。 『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』苦難に立ち向かう女性たち【画像5枚】
人工妊娠中絶が法律的に許されていなかった時代の女性たちの苦難
『コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ー』は、女性の権利である人工妊娠中絶が法律的に許されていなかった時代の物語。1960年代のアメリカ・シカゴで、2人目の子供を妊娠した主人公ジョイ(エリザベス・バンクス)は、弁護士の夫ウィル(クリス・メッシーナ)と高校生の娘シャーロットら愛する家族とともに、専業主婦として何不自由ない暮らしを送っていた。 ところが、妊娠により心臓の病気が悪化し、医師に唯一の治療は妊娠をやめることだと診断される。中絶するためには病院での倫理審議が必要となるが、地元の病院の責任者も医師も男性ばかり。母体が妊娠したまま助かる確率が50パーセントだといっても、「半々なら子供を守るべき」とでも言わんばかりの男性陣にあっさり人工妊娠中絶を拒否されてしまう。 そこから、ジョイは自力で中絶手術を受ける方法を模索しはじめ、正規ルートではなく違法だが安全な中絶手術を提供する女性主導の活動団体「ジェーン」にたどり着く──。 実在した団体「ジェーン」の活動をめぐる本作は、実際に1969年~1973年のアメリカであった話がベースだ。女性たちは自ら中絶処置を学び、すべての女性を総称するコードネーム「ジェーン」としてグループを形成。推定12,000人の女性たちの中絶を手助けしたとされている。そして、この活動が女性の人工妊娠中絶権は合憲だとする1973年の「ロー対ウェイド判決」へとつながっていく。 映画は、本来ならこのようなアンダーグラウンドな活動に関わるようなタイプではなかったジョイが、「ジェーン」の活動を始めたフェミニストのバージニア(シガーニー・ウィーバー)をメンターとして、女性の権利を守ることの意味を考え、自ら行動し、成長する姿を描く。