映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』人工妊娠中絶が違法だった時代の女性の苦難
今の時代に、改めて「女性の権利」は守られているのかを問う
「私の体は私のもの」として語られるSRHRについては、ひと昔前に比べれば格段に一般にも認識されるようになっている。一方で、現実を考えたときに、その権利は守られているのかといえば、セックスや妊娠・出産をめぐる問題を筆頭に、まだまだ現実的には本人の意思とは異なる要素に左右される(決断を社会通念や他者に強いられる)ことも多いのではないだろうか。 人工妊娠中絶の権利は認められているはずの先進国でも、今また議論が再燃・激化している。例えばアメリカでは宗教と大きく関係しているが、プロライフ(人工妊娠中絶の合法化に反対すること)とプロチョイス(人工中絶権利擁護派)に二分されており、フェミニズム活動においても最も重要な争点のひとつだ。この問題を考える上で欠かせない拠りどころとなっているのが、アメリカで長年、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年のロー対ウェイド判決である。 しかし、2022年6月に、米連邦最高裁はこの判決を覆す判断を示した。これによって、アメリカでは女性の中絶権が合衆国憲法で保障されなくなるという衝撃的なものであるからこそ、危機感は高まっているのだ。 『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』を観れば、ロー対ウェイド判決へ至る道のりの一端とその意義が、いかほどのものであるのかについて思いを馳せることができるだろう。もちろん各国や地域によって状況は異なるが、この映画を入り口として、今の時代を生きる私たちが当然だと考える権利について、改めて考えるきっかけになるはず。それこそが、ナジーたちが本作に込めた思いであり、この映画の最大の意義でもあるだろう。 『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』3月22日(金)新宿ピカデリー他全国公開 監督・脚本:フィリス・ナジー 出演:エリザベス・バンクス、シガニー・ウィーバーほか ⓒ2022 Vintage Park, Inc. All rights reserved. 取材・文/今 祥枝 映画・海外ドラマ 著述業 ライター・編集者 今 祥枝 『BAILA』『クーリエ・ジャポン』『日経エンタテインメント!』ほかで、映画・ドラマのレビューやコラムを執筆。米ゴールデン・グローブ賞国際投票者。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP)。