「修学旅行のための数万円」で加担するケースもーー若者を闇バイトから守るために大人ができること #こどもをまもる
周囲にとって取るに足らないことでも、本人にとっては喫緊の課題になりうる。ではどうすれば、闇バイトに手を出す若者を減らすことができるのか。 「明確な解決法は残念ながらありません。でも、“物事の評価軸を多様にすること”には大きな意味があると思います。修学旅行に参加するためや、友達と旅行するために闇バイトに加担する、という子がいるんだとしたら、それは学校や周囲が『修学旅行は一生の思い出』『友達との関係は大切』と重きを置きすぎているのかもしれない。『修学旅行なんて行かなかったけど、今も友達たくさんいるよ』って話してくれる大人がいれば、旅行のための闇バイトなんてやらなくて済むかもしれない」 もちろん、それだけでは止めることができない。さまざまなタイプの若者がいる。 「犯罪行為に加担してしまう子には、大まかに3種類のタイプがあると思っています。『本当に悪いと思わずにやっている子』『悪いと気づいて逃げようと思ったけど、逃げられないところまで囲い込まれた子』。そして『悪いとわかっているけど、“なんで善じゃなきゃいけないんだ”と犯罪に踏み込む子』。3番目のタイプの子には、赤信号だとわかっていても、自覚的に止まるだけの材料がないんです」 現実的に、「教育」だけで闇バイトの被害を根絶することは難しい。 「まず必要なのは、悪いことだと気づける能力。そして、悪いことだと気づいたときに相談できる大人。それも含めた、明日も健全に生きていきたいと思えるだけの材料。本当の意味で子どもを救いたいと思うなら、子どもたちの生きづらさに向き合わないといけない」 親や教師にとって大切なのは、「うちの子は大丈夫」と思わないことだ。誰にでも動機ときっかけがあり、簡単に犯罪行為に巻き込まれてしまう。自分たちよりリスクの高い時代に子どもたちが生きていると認識するべきだ。
だまされないために、大人たちが伝えられること
ハッシャダイソーシャルの三浦さんは、若者への啓蒙を通して状況を変えようとしている。 前述した、消費者教育について学べるテキスト『騙されない為の教科書』を2023年6月にリリース。ウェブ上で無料公開 しているほか、紙版についても申し込みのあった学校などに無料で配布している。わかりやすい図や漫画を通して、闇バイトの構造と「被害に遭わないための知識」を伝えようとする試みだ。 三浦さんはこう話す。 「怪しい誘いがあったときに、子どもたちのなかで『これちょっと怪しいな?』『こんなの聞いたことあるな』と頭によぎることが重要だと思っていて。大人が伝えるべきメッセージはシンプルで、『うまい話には裏がある』『衝動的に行動しない』『一人で抱え込まない』。この三つを伝える必要があります」 教職員や親世代にもできることがある。闇バイトの被害から若者を守るためには何ができるのか。 「“相談できる大人でいること”だと思います。注意喚起をするときには『絶対にダメだぞ』という正論じゃなくて、自分の失敗談とセットで話してあげてほしいんです。『俺も昔、こんなことがあって危なかった』なんて体験談と一緒に伝えてくれたら、子どもたちも相談しやすくなる」 子どもの周りにいる人間として、相談される大人でいられるかどうか。その視点の重要性を、元法務教官の安部さんも語る。 「いろいろな形で子どもたちと関わり続けて確信しているのは、子どもは相談する相手を選ぶということ。頭ごなしに叱る人なのか、話を聞いてくれる人なのかを見極める。『絶対にダメだ』と話すんじゃなくて、『ダメだと思っている。でも、加担してしまう人がいるのもわかる』と、日常のなかで話しておくことが大事だと思います」