累計7500万本売れた「豆腐バー」豆腐業界の常識を覆すヒットの理由に迫る!
〇「豆腐バー」ヒットの理由2~固定観念を捨てた 入社3カ月後、アメリカへ市場調査に向かった池田は、現地のスーパーである光景を目にする。パッケージに「Firm(硬い)」と書かれている。柔らかい豆腐が当たり前の日本とは違い、アメリカでは歯応えのある硬い豆腐が好まれていた。 また惣菜売り場には、バーベキュー味や甘いごま豆腐、メープル味のフライなど、さまざまな豆腐料理も並んでいた。 「豆腐の可能性を殺していたのは私たち自身だと思った。豆腐ってもっと自由に楽しんでいいのではないか。日本でも硬い豆腐があってもいいのでは、と」(池田)
「豆腐バー」開発秘話~立ちはだかった二つの壁
アメリカから帰国すると早速、開発担当者や工場の職人たちに声をかけた。ところが「そんなもの、作れるか」「豆腐を冒涜(ぼうとく)している」……社内の猛反対もあり、開発は池田と当時の開発担当・福光晶子の2人だけでスタートした。 「硬い豆腐を作ったことがないのと、工場に行ってもそれを作れる機械がないんです。ノウハウもまだないのですごく困った」(福光) 硬い豆腐を作ったことのない2人が試行錯誤を重ねた結果、アメリカ視察から1年後、ようやく試作品が完成した。 持ち込んだのは「セブン‐イレブン」。すると、商品化に向けて二つの課題を突きつけられた。食べ応えが実感できるように「サラダチキン」並みに硬くすること。そしてタレがこぼれないようにすることだった。 そこで工夫して、豆腐バー専用の製造ラインを開発する。通常の豆腐は上下2枚の布で挟んでプレスして成形する。一方、「豆腐バー」は通常の豆腐よりも強く圧力をかけて、水分をギリギリまで抜いていくのだ。プレス直後、通常の豆腐は厚みが約3.5cmなのに対し、「豆腐バー」は厚みを2cmまで圧縮。水分を抜くことで硬い豆腐作りに成功した。 味付けも、一般的に豆腐は煮て味付けするのだが、「豆腐バー」はタレのシャワーを数回浴びせる。そして「乾燥することで味を染み込ませます。最後に製品が液だれしないレベルまで水分を調整します」(行田工場長・齋藤直人)。 こうして課題をクリアすると、2020年11月、ついに「豆腐バー」の発売にこぎつけた。 販売はまずコンビニでスタート。池田は豆腐売り場ではなく、「サラダチキン」や「チキンバー」と同じコーナーに並べることを提案した。豆腐ではなく、タンパク質が取れる食品として認識してもらうのが狙いだった。 これが見事に的中し、発売当初は1種類だったが、今ではすき焼き風など11種類に増えた。豆腐バーのヒットでアサヒコの売り上げは上昇に転じ、2023年度には126億円に達した。 「お客様に提案の仕方を変えるだけでこんなに評価していただけるんだと。もっと付加価値があるものをお客さんにきちんと提案すれば、商品が売れる」(池田) その手腕を買われ、池田は2023年5月、アサヒコのトップに就任した。