「年末年始も休まず営業します」は時代遅れ…「365日働く日本人」から撤退した"先進的企業"の英断
■「便利」の裏には、多くの犠牲があった この「年中無休営業」文化は、消費者にとって大いに至便であり、顧客満足度を高めてきた一方で、従業員に対しては大きな負担を強いてきた。彼らの長時間労働が土台となって成立していることは大前提であり、かつ深夜勤務となると生活リズムの乱れにより、健康へ悪影響が及ぶこともある。 店舗運営側も大変だ。24時間365日誰かがシフトに入る必要があるため、穴が開かないよう常に採用と教育を継続しなければならず、急に誰かが休み、大体人員の手配がつかなければ社員や店長が現場に出なくてはいけない。当然、休みもなかなか取れない状態となってしまうだろう。 そもそも、従業員に22時から翌朝5時まで働かせる場合、店舗側は深夜残業代として通常より25%増の割増賃金を負担しなければならない。しかし想定よりも来客が少なかった場合、商品の廃棄率は増加するうえ、通常より重たい人件費負担がのしかかり、せっかく頑張って店を開けているのに赤字になるリスクもある。 さらに人の往来が少ない立地だと、強盗や万引きなどの犯罪リスクも高まり、防犯対策の負担もバカにならない。 ■「不便さ」を受け入れなくてはいけない すなわちわが国の「消費者に優しい高品質サービス」は、まさに従業員と店舗運営側の犠牲の上に成り立っていたのだ。したがって各社の一連の動きは、単に従業員の労働環境を改善するとの観点だけではなく、魅力的な職場環境を提供することが企業の採用力と競争力強化につながり、ひいては企業の持続可能性を高めるための戦略的な判断であるともいえよう。 そして、労働環境の改善には、企業側の努力だけでなく、消費者の意識改革も必須となる。「いつでも何でも手に入る」という便利さに慣れた消費者にとって、営業時間の短縮や休業日の増加は不便に感じられるかもしれない。 しかし、われわれ一人ひとりがこの「不便さ」を受け入れることこそが、持続可能な社会の実現につながるのだ。 これまでわれわれが、安売店でさえも「お客様」として丁寧に扱われ、うやうやしく接客される高品質サービスが実現できていたのは、あくまで「若い労働力が」「安い賃金で」「いくらでも雇える」という一時的な人口ボーナスタイムの恩恵があったからに過ぎない。