五月病、ストレス。心が折れそうならイスラエル生まれの「BASIC Ph」で自分の「回復力」を知ろう
大きな困難だけでなく小さなストレスにも使ってOK!
――大きな災害や紛争などといった重篤なトラウマ体験以外でもBASIC Phを活用することができるのでしょうか? 「BASIC Ph」は日々のストレス、例えば「仕事でちょっと失敗しちゃった!」みたいな、小さなストレスにも使っていいものなのでしょうか。 新井さん:もちろんです! 「BASIC Ph」は日常のストレスや、日々のコミュニケーション、日々の業務の中でも役立てることができます。ストレスコーピングはもちろんですし、コミュニケーションにも使えますよ! ―――コミュニケーションにも使えるんですか。どうやって活用したらいいんでしょう。 新井さん:どんなふうに語るのかという視点で眺めると、その人の得意なチャンネルが浮かび上がってきます。なぜなら人は自分の得意なチャンネルを使って会話することが多いからです。 例えばある人が事故にあったとします。もし、その人が「こわかった! 本当にこわかったよー!」と伝えるなら、まず最初に感情を表出しています。なので、この人は「Affect(感情)」が得意なのかなと推測することができます。次に「◯◯交差点で右折しようとしていたときに事故にあいました。こちらが優先道路を走っていました」とまず最初に事実関係を話そうとする人は「Cognition(認知)」のチャンネルが得意な人と言えるかもしれません。このように、無意識にその人が得意なチャンネルで、出来事を表現しようとするものなのです。 人間関係にすれ違いが起きるときがありますよね。そのようなとき、実はそれぞれの人の得意なチャンネルが異なっていることによって、すれ違いが起きていることもあるんですよ。なので、「相手がどのチャンネルが得意な人なのか」を見極めることも、コミュニケーションに役立ちます。 例えば、こんなコミュニケーションのすれ違いはありませんか? 妻はその日にあった大変だった出来事を夫に話して、「そうか、それは大変だったね」と労ってほしい。つまり感情のチャンネルで話を始めたのですが、夫は「そうか、その場合は、まず◯◯をして、次に△△をして」と具体的な対処方法を提案しようとします。すると妻は「あなたにそんなことを言われなくてもわかっているのよ」と感情的に怒り出したりします。 何が起きているのかを「BASIC Ph」を使って分析してみると、妻は「感情」のチャンネルを使って、自身のストレスを対処しようとしていたのですが、夫は「認知」のチャンネルを使って、その問題を対処しようとしていたのです。つまり、チャンネルが違っていたために生じたすれ違いだったのですね。もしこの夫が最初に一言、「それは大変だったね、よく頑張ったね」と労いの言葉を一言かけていたら、状況は違っていたと思います。こんなふうに、相手のチャンネルを理解することもコミュニケーションで役立つのです。 さらに、仕事の場面でも「BASIC Ph」は役に立ちますよ。例えば相手が上司なら、「認知のチャンネルが得意そうだから、わかりやすく情報を伝えよう」とか、「ソーシャルのチャンネルをよく使う人だから飲み会を開いて仲良くなろう」とか、うまくいくコミュニケーションの方法を考えるヒントになり、それは武器になるはずです。まずは自分のタイプから、知ってみましょう! BASIC Ph JAPAN代表 新井陽子 臨床心理士、公認心理師。BASIC Ph JAPAN代表。日本EMDR学会所属。公益社団法人被害者支援都民センター勤務。東日本大震災の復興支援に関わり、その際にBASIC Phとその提唱者・ムーリ・ラハド博士と出会う。 参考文献:『緊急支援のためのBASIC Phアプローチ――レジリエンスを引き出す6つの対処チャンネル』(遠見書房)ムーリ・ラハド,ミリ・シャシャム,オフラ・アヤロン 編 佐野信也,立花正一 監訳 新井陽子 角田智哉 濱田智子 水馬裕子 丸田眞由子 岡田太陽 柳井由美 訳 取材・文/東美希 イラスト・企画・構成/木村美紀