ウクライナで拘束中の米国人ブロガーはなぜ死んだのか?ロシア侵攻正当化の疑いで治安当局逮捕 イーロン・マスク氏らも調査要求、米国政府は論評避ける
ウクライナ在住の米国人ブロガーがロシア侵攻を正当化する虚偽情報を流布したとして、ウクライナ治安機関に逮捕され、拘束中に死亡した事件が波紋を広げている。遺族らは逮捕は不当で、重病にもかかわらず、十分な医療も受けられなかったと批判。米企業家イーロン・マスク氏らも調査を要求したが、ウクライナ当局は逮捕は適法だと退けた。米国務省はコメントを避けている。(共同通信=太田清) ロシアが核攻撃に踏み切ったらアメリカはどこに報復するか? 米政権内で行われていた机上演習の衝撃的な中身
▽何の支援もない 死亡したのは米国とチリの二つの国籍を持つゴンサロ・リラ氏で、昨年5月、東部ハリコフの自宅を捜索され、逮捕された。その後、保釈されて自宅軟禁となったが、ハンガリーに向け国外逃亡を図った(リラ氏は政治亡命のためと主張)ことで再度拘束された。 昨年12月に予定された初公判で有罪となれば最高8年の禁錮刑が科される可能性があったが、体調を崩し、今年1月上旬、55歳で死亡した。死亡場所についてはハリコフの病院と拘束施設の2説ある。 死因は明らかでないものの、リラ氏の父親は、生前同氏が残したとされる手紙を公開。そこで、リラ氏は肺炎や気胸など深刻な病状となりながら、拘束施設側から必要な手当てを受けていないと訴えた。父親はリラ氏が拘束施設で拷問を受けたと主張したほか、米国大使館もリラ氏の苦境に対し何の支援もしてくれなかったと強調した。 ▽言論の自由保障 リラ氏の逮捕を巡っては、米保守系テレビ、FOXニュースの元司会者でジャーナリストのタッカー・カールソン氏がSNSで「リラ氏はゼレンスキー・ウクライナ大統領を批判したことで、収監され拷問を受けた。バイデン米政権もこれを容認している」と表明。マスク氏も同様に、多額の資金支援をしている米国の市民がゼレンスキー大統領を批判したことで投獄されたとすれば「重大な問題」と懸念を示し、調査を求めた。
これに対し、ロシアなどのプロパガンダ(政治宣伝)に対抗して正確な情報を提供する目的で設立されたウクライナ政府の戦略コミュニケーション・情報安全保障センター(SPRAVDI)は昨年12月10日、自らのサイトに反論を掲載。 ロシア侵攻によりウクライナは戒厳令下にあるが、言論の自由は保障され大統領を批判しても罪には問われない。リラ氏訴追の理由は、ゼレンスキー氏批判ではなく、ロシア侵攻後に施行され、侵攻を正当化することなどを禁じた刑法の条項に抵触したからだとの主張を展開した。 その上で、同氏がウクライナの政権をネオナチと定義しロシア侵攻を正当化したほか、ロシア軍によるウクライナの都市へのミサイル攻撃や、首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでの虐殺を否定、さらにウクライナ兵士を撮影して侮辱したとして、リラ氏が違法行為を行ったのは明らかだと指摘した。 また、リラ氏が拘束され続けているのは、自宅軟禁を破り国外に逃走しようとしたからだとした上で、同氏がウクライナでの戦争を報道している米国人記者らの滞在先を公表し、ロシアのテロ行為による危険にさらしたと逆に批判した。