新型出生前検査「陽性」産むことを決めた母親 批判集まる認定外施設、検査結果をどう理解するべきか?
不安になったのは、障害児をめぐる情報を知らなかったからだと立石さんは言う。行政が提供する障害者支援の詳細を知っていくと、不安はどんどん減じていった。 「障害者への支援は想像以上に手厚い。お金の心配はなく、ヘルパーさんも安価で来てもらえるので仕事をやめる必要もなかった」 今ではこの子に出会えて本当によかったと思っている。危惧するのは、多くの人に障害者をめぐる支援の情報が届いていないのではないかということだ。 「知らなければ不安は増大する。障害者を育てる日常や支援まで知ってもらったら、出生前検査に対する受け止め方が違ってくるんじゃないでしょうか」
「妊婦ファーストとは何か」社会全体で考えるべき
2022年10月から、前出のFMC東京クリニックもNIPTを開始した。中村院長は、NIPTの導入時から遺伝や疾患についてのリテラシーを高める方策を国が主導して行うべきだったと指摘する。 「妊婦さんは、少しでも問題があれば中絶してしまうと危惧する声がよく聞かれます。ですが、それは異常が分かった時、結果をいかに評価して理解するかによって変わる。だから確定検査を受けずにNIPTだけで中絶を選んだ場合は、妊婦の判断というより、医療側の説明が十分でない場合が多いのではないでしょうか」
中村院長には気になっていることがある。それはNIPTが「サービス」だと捉えられがちなところだ。 「そもそもNIPTは医学的検査です。医療なんだから、満足度だけで判断できるとは思えない。それも遺伝医療ですから、倫理的な問題、社会に与えるインパクトなど様々な影響がある」 そして、障害のある子どもの親にとっては、検査が広がることで「自分たちの子どもが阻害されてしまうのでは」という恐怖感を持つことも理解できるという。 「『妊婦ファースト』とは何かです。女性の自己決定権は重要ですが、妊婦さんの不安に応えるという名目でなんでも検査できれば良いという問題でもない。それは、これからどういう社会になっていくのかという大きな問題にも関わっているからです。妊婦さんや医療界だけではなく社会全体で考えていかなければならないと思います」
-------- 河合香織(かわい・かおり) ノンフィクション作家。1974年生まれ。神戸市外国語大学卒業。2009年、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で2019年、第50回大宅壮一ノンフィクション賞、第18回新潮ドキュメント賞受賞。近著に『分水嶺―ドキュメント コロナ対策専門家会議』