希望だけをもたせる技術は提供できない──広がる卵子凍結、その可能性と課題 #卵子凍結のゆくえ
将来の妊娠に備えて未受精卵を凍結・保存する「卵子凍結」。女性がキャリアと出産の両立を可能にするものとも言われ、実施例も増えている。その一方で、課題や問題点がよく知られないまま、広く行われることを懸念する専門家の声もある。卵子凍結のもつ可能性と、リスクは? いま知るべきことを、複数の立場の専門家に聞いた。(ノンフィクションライター:近藤雄生/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
卵子凍結が福利厚生となる時代に
卵子凍結とは、女性の卵巣から卵子を採取し、未受精の状態で凍結・保存する技術である。必要となったときに融解し、体外受精によって妊娠へとつなげられる可能性がある。 元来、がん患者が治療の影響から卵子を守ることを目的として行う「医学的適応」のための技術だったが、2010年代に入り、30代後半以上の不妊の大きな要因が「卵子の老化」であることが一般に知られるようになると状況が一変する。がん患者以外でも、将来の出産を見据えた卵子凍結を望む若い女性が増え、施術件数も伸び始めた。これを「社会的適応」という。 この「社会的適応」の卵子凍結が一足先に広まったのがアメリカだ。2012年にアメリカ生殖医学会が、「卵子凍結は試験段階から実用化段階に入った」と発表。これを機に、働く女性の選択肢の一つにすべきだという声が広がった。そして2014年にFacebook社が福利厚生に卵子凍結の支援を取り入れたのを皮切りに、大手テック企業を中心に同様の動きが広がっていった。 そうした流れのなか、おそらく日本で初めて、福利厚生に卵子凍結の費用補助を導入したのが、PR会社のサニーサイドアップだ。社長室の谷村江美さん(39)は言う。 「アメリカでの動きを知り、当社でも凍結したいと考える社員がいたときに会社としてサポートできたらという思いで、2015年にこの制度を取り入れました。卵子凍結から保存までの費用総額の30%を会社で負担します」