アスリートへの誹謗中傷、どう自衛するか サッカー元日本代表の大久保嘉人さんが明かす経験策と対処法
大久保嘉人コラム「一路邁進」10 この夏は眠れない日々が続きました。盛り上がったパリ五輪の影響です。次の日が仕事だから寝ないといけないと分かっていても、結果が気になって…。わが家の子どもたちも同じでしたね。 印象に残ったのは柔道の団体かな。惜しくも金メダルには届かなかったけど、とても熱狂させてもらいました。サッカー男子も大会前の評価を覆すような試合を見せてくれました。自分もアテネ五輪に出場した当時の経験を思い出しました。この先は、世代別ではない日本代表を目指さないといけない、と感じていました。 五輪といえば選手たちの活躍だけでなく、大きな問題がありました。交流サイト(SNS)での誹謗(ひぼう)中傷です。僕が若い頃の現役時代は、今ほどはSNSが盛んではなかったけど、聞きたくないような言葉を受けて、嫌な思いをたくさんしました。 対策は簡単ではないけど、僕の場合は「見ない」ということを心がけました。ワールドカップ(W杯)に出場した時、Jリーグで得点王を取った際もそうですが、いろんなニュースに自分の名前が出ます。いいことも書いてあるし、見たいと思うのは当然。一方で、必ず悪いことが書いてある。評価の声でモチベーションが上がるのも分かるけど、それ以上にマイナスの言葉が気分を下げる。それなら「見ない」ことで、自分を守るしかなかったですね。 僕の場合、強気なキャラクターと見られていたと思うけど、批判や厳しい声で落ち込むことはありました。常に考えていたのは、苦しいことだらけのサッカー人生で、いろんな結果を勝ち取ったのは自分。だから言いたい人には言わせておいて、思ったようにやるんだ、ということだけでした。 アスリートが自分のアカウントを通じて意見を発するのは自然なことでしょう。僕もSNSを活用しています。自分のことを知ってもらう機会になるし、ほとんどは励ましや応援の声です。発信するのは、面白いと感じることやプライベートの話題で、サッカーのことは控えめにしています。競技について語りたい現役選手もいるので、自分に合うやり方を見つければいいと思います。こういう時代なので、考えて発信することが大切です。投稿によって嫌な思いをする可能性があるなら、上手に避けないといけないでしょう。 JリーグでもSNSの中傷を発見した場合、発信者を特定することに取り組んでいますが、今後は公表することまで踏み込んでほしい。過剰な批判で力を出せないだけでなく、命を落とす人もいるような問題になってきた。本当にやめてほしいと思うけど、簡単になくならない現状では、自衛の手段を考えるしかないのかもしれません。(サッカー元日本代表)
西日本新聞社