マラケシュ「ラ・マムーニア」は、大人のアラビアンナイトを叶える“おとぎホテル”でした
エントランスにいたのは数秒なのに、そのインパクトは強烈。繊細かつ鮮やかなアラベスク模様は何分もじっくり眺めたいほどで、本音を言えば玄関なのに「まだ入りたくない」と感じる美しさ。しかし、中も負けていません。
深紅の絨毯が敷かれたロビー頭上に輝くのは、貴婦人のネックレスのような壮麗なシャンデリア。それはホテルの100周年を記念して2023年に誕生したもので、モロッコの伝統ジュエリーから着想を得ています。内側の赤いロープには地元職人による彫刻が施された500以上のペンダントが輝き、外側はチェコの気鋭ガラスブランド「ラスビット」とのコラボレーションによるもの。
そんなシャンデリアを横目にソファに座ると、ミントティーがサーブされます。細長い滝のごとく注がれるミントティーはガツンと甘く、香り高い。旅の疲れはどこへやら。芸術作品といえる内装のなか、舌でも異郷を感じ、「おとぎホテルか」と最初の5分で体感します。それほど流麗な世界は、やはりホテルの長い歴史が築きあげたものでした。
100年以上の歴史と、誇り高いスタッフの存在
「ラ・マムーニア」は、元は18世紀に当時の君主だったモハメド3世が婚姻祝いに贈った庭園。ホテル名も君主が名づけた「アルサット・アル・マムーン(神の国の庭園)」が由来です。 1923年にホテルとして開業するとマラケシュのシンボルになり、錚々たるVIPが定宿としました。元英国首相チャーチル、ネルソン・マンデラ、チャーリー・チャップリン、エリザベス女王etc. 時代を超えて愛され続け、2021年には『コンデナスト・トラベラー』の読者投票で3度目の世界1位を受賞し、2023年には「世界のベストホテル50」で6位にランクイン。 輝かしい話題の一方で、著名人以外の話にも惹かれます。なかでも印象に残っているのが、「ラ・マムーニア」で働く人々がホテルのことを誇りに思う言葉の数々。現地で聞いた数人の声をご紹介します。
「私はマラケシュで生まれ、子供の頃からラ・マムーニアに憧れていました。以前は旅行代理店に勤めていましたが、ここは私たちが紹介するなかでもいちばんのホテルでした。どこへ行っても誰と話す時でも、ラ・マムーニアで働いていると話すと“Amazing!”と反応されます。歴史、空間、スタッフ、そしてお客さまも、世界でいちばんだと思っています」(コンシェルジュ) 「ラ・マムーニアは宮殿のように美しいですが、私は家のようにも感じています。温かみに溢れているからです」(バーマネージャー) 「100年前に私はラ・マムーニアにいませんでしたが、こうして働いていると、私はそこにいたように感じるのです。自分がこのホテルの一部でいられることに誇りをもっています。ここで働いていたことを、いつか孫にも話したいですね」(コンシェルジュ)