認知症の将来推計が大幅低下? 健康意識の高まりと生活習慣病コントロールに活路あり
大規模で綿密な調査
その調査とは、九州大学大学院・医学研究院衛生・公衆衛生学分野教授・二宮利治先生のグループが行った大規模かつ綿密なもので、調査対象は福岡県久山町・石川県七尾市中島町・島根県海士町・愛媛県伊予市中山町・岩手県矢巾町・大阪府吹田市の6地域に住む65歳以上の住民である。 凄いなと思ったのが、調査対象が「(一部地域を除いた)65歳以上の全住民」とされていたことである(なお、今回の認知症有病率の推計に使用されたのは調査率が85%以上だった4地域の結果で、4地域全体の調査率は93.4%である!)。 「認知症有病率の正確さは、住民の何割を調査できたかに左右されます。調査率と認知症有病率の関係に関するメタ回帰解析(→注1)では、調査率の低下に伴って各地域の認知症有病率は低下しました。調査会場に来られる方は、比較的元気な方である傾向がありますので、有病率に調査率の影響が大きいことが示されています。正確な数字を出すためには、可能な限り全住民の調査を行うことが大事です(→注2)」(九州大学・二宮利治先生、以下同) 注1:「メタ回帰解析」とは、複数の研究結果を統合し、より高い見地から分析すること。 注2:今回の調査では、会場調査に加え自宅や入居施設の訪問調査も実施している。 調査結果は、令和5年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業)「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究 報告書」として、下記URLで公開されている。https://www.eph.med.kyushu-u.ac.jp/jpsc/uploads/resmaterials/0000000111.pdf?1715072186 報告書を見てみると、実際に調査された人数は、6地域の65歳以上住民1万2240人のうち、8617人(調査率70.4%)。報告にあたっては精度の高い4地域(対象者7143人のうち)の6675人の結果が使用されている(調査率93.4%)。 目を見張ったのが診断方法で、報告書によると、「認知症の診断は認知機能調査票を用いて、二段階方式で行う」とあり、「面接調査はトレーニングを受けた医師・保健師・看護師・心理士等が実施した」という。しかも「一次調査で認知機能低下が疑われる者に対しては、精神科・脳神経内科専門医による二次調査を行い、本人の診察、家族・主治医との面接、臨床記録などの結果を通じて認知症およびMCIの有無と重症度、病型を評価した」というのだ。(正確なところを知りたい方は、上記リンクの報告書をご覧ください)。 つまり、専門家がとてつもなく綿密な調査を行い、認知症は元より、軽度認知障害(MCI→注)の正確な診断を対象地域の65歳以上住民の9割以上に行って得られたのが、今回の報告なのである。よって、この報告には現代日本の「認知症のリアル」がつまっていると言っていいだろう。 注:「MCI(軽度認知障害)」とは、健康なときと比べて認知機能が低下しているが、日常生活に大きな支障をきたしていない状態で、健常者と認知症の中間状態」を指す。