「おじさんコミュニティ」で意思決定する時代は終わった 「言語化」で多様性を組織に活かす
女性の社会進出や外国人人材の登用、コロナ禍で加速した働き方の多様化などにより、同じ会社で働く人々でもそのライフスタイルや考え方は多様になっています。法政大学経営大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授の高田朝子さんは長年にわたって女性管理職の実態を研究し、同質的な男性同士が閉じられた場で会社の重要な意思決定を行う「おじさんコミュニティ」の問題を指摘してきました。人々が多様化し、組織が変化する新しい時代にふさわしい組織やリーダーのあり方とはどのようなものなのか、高田さんにお話をうかがいました。
「制服を着るのが嫌」で入社した外資系証券会社MBAで答えのない問いを扱う経営学の魅力に目覚めた
――大学卒業後に外資系証券会社へ就職した理由と、その後、研究者を目指した経緯をお聞かせください。 就職活動をした頃はバブルの時代。金融機関に勤める家族が多い環境で育ったので、なんとなく自分も金融機関に就職するのだと思っていました。まだ女性の就職は厳しい時代で、採用人数が多かったのが金融機関という側面もありました。一方で「制服を着るのは嫌だ」「古典的なエリートコースではないので銀行では出世できないだろう」という考えもありました。そのような背景から、当時日本に進出してきたばかりだった外資系証券会社に興味を持ち、入社しました。 最初に入社した外資系証券会社が他社と合併するタイミングで、モルガン・スタンレーからオファーをいただいて転職。入社後しばらくしたら、上司に「修士号を持っていないと昇進できないから、取得したほうが良い」と言われ、学問の方面に進むことを考え始めたんです。当時はいわゆる「第一次MBAブーム」の時代で、「海外に行ってみたい」という気持ちからアメリカに行き、修士号を取得しました。 そこで「経営学って面白い」と気づいたのです。それまでの勉強は、良い点数を取らなければならないもの、答えがあるものでした。私はそれが苦手だったのです。でも、経営学の勉強には答えがない。それがすごく面白いと思いました。 もう一つ、社会人になって間もない頃に「ブラックマンデー」を経験したのも大きかったですね。月に給与額で1億円稼ぐような人が、職がなくなって真っ青になっていくのを目の当たりにして、「人ってこんなに変わるのか」と驚きました。正解がない人間の行動に興味を持ち、その面白さにのめりこんでいきました。 研究者になった直接のきっかけは結婚と出産です。米国から帰って結婚した直後に内定をもらっていた会社に海外赴任を命じられ、子どもを授かったこともわかったので退職。研究者への道を進むことに決めました。 専門分野は組織行動です。組織行動は「ミクロの組織論」と言われていて、組織をどう作るかよりも人に着目しています。どういうリーダーシップをとると組織がうまく回るか、どうやって人を動機づけるかを研究しています。 ――高田さんは長年、日本企業の「女性活躍推進」や「女性管理職」について研究されていますが、現状をどのように捉えていますか。 女性管理職について10年以上研究を続けています。15年ほど前は女性管理職の数はかなり少なかったのですが、今は数が増えてきたと感じますね。役員を目指す人も増えていますが、それは上場企業の女性たちの場合です。証券市場のルールなど外部の目によってガバナンスがきいているからです。クローズドの会社では必要がないから進んでいないといえます。 大企業では、男性だけではマネジャーのポストをまかなえなくなっているからお尻に火がついている部分もあるけれど、中小企業は困らない。それが本当に困っていないのか、見て見ぬふりをしているのかはなんとも言えませんが、中小企業の女性管理職の数はまだ少ないのが現状です。