「おじさんコミュニティ」で意思決定する時代は終わった 「言語化」で多様性を組織に活かす
「怒るとき」こそ、言語化能力が大切感情を伝えることは、上司にも部下にも必要なスキル
――「言語化能力」が必要となるのは具体的にどのような場合、どのような状況でしょうか。また、その際に言語化能力が必要となる理由は何でしょうか。 まず、自分のやりたいことを部下に「察せよ」というのは間違っています。「私はこうしたい。だから、こうしてほしい」「こういうゴールに向かってみんなで考えよう」「考えていることを言ってほしい」などとはっきり言うことが必要です。いろいろな人がいろいろなことを言ったほうが予測の幅が広がり、良いアイデアが生まれ、組織は良い方向に向かいます。 それから、「怒るとき」こそ、言語化能力が重要です。怒るときほど、罵倒や相手の存在を否定してはいけない。相手に「この人は自分に当たりたいだけだ」と思われてしまってはいけません。まずファクトがあって、それを表現し、それに対して自分はどう思い、どうしてほしいと思っているのかをきちんと伝える必要があります。怒られた部下が、後から「一理あるな」と思い返すような怒り方をすべきです。 部下の側が上司に抵抗するときも、言語化能力は重要です。「私は怒っている」あるいは「困っている」「悲しい」といった気持ちは、言葉で言えなければ伝わりません。自分がそういう気持ちになっているということは、相手は想像力が欠如しているか、忙しすぎてそこまで気が回っていないのです。自分から伝えるしかありません。 どちらの立場にしても長く語る必要はありません。話が長いときは、自己保身のために話している傾向がありますし、長い話をしているうちに相手の意識は離れていきます。 また、リーダーシップで一番大事なのは淡々としていることです。「言語化能力が高い」とは「おしゃべりである」ことではないし、いわゆる「コミュニケーション能力が高い」タイプである必要はありません。端的に言語化できること、全体を俯瞰して前提から疑問を持てるような能力が重要です。 ――「言語化能力」を磨くために、個人として努力できることや人事部門ができることは何でしょうか。 個人としてできることは、自分の中で脳内シミュレーションをして言語化する習慣をつけることです。例えば「あの人はなんで怒っているのか」を文字や声にしなくとも頭の中で言葉にして考えてみるのです。また、「あのときこういえばよかった」と反省することも効果的です。 人事部門ができることとしては、正解がある前提の研修を多く行わないことです。幹部や幹部候補の選抜を早めて、早いうちから自分なりの答えが出せるようにトレーニングしていかなければ間に合いません。一人の人が長く一つの会社に勤める時代ではないので、必要になる一世代前から教育し、その中で何%が残るかを計算しながら育てなければなりません。年に2、3回は「業務より研修に集中しなさい」といって成果物を作らせることが必要です。 また、これまでの日本の会社は「おじさんコミュニティ」に象徴されるように内向きでした。これからの日本において大事なことは、ある種の集合知です。同業でも異業種でもネットワークがあることが重要で、社員の越境学習は支援すべきだと思います。 マネジメント能力は「知識」と「振る舞い」で構成されます。振る舞いの部分は勉強で身につけるものではなく、自分で考えることであり、やってみないとわかりません。一方的に「こうあるべき」を教える研修では、この能力は育ちません。