【芸術の秋に行きたい展覧会】メキシコと日本を往来し画家・美術教育者として活躍した北川民次の画業を辿る
北川は美術教育の一環として絵本制作にも注力し、当時の日本の絵本では画一的に表現されていた人物や動物を躍動的に描いて、それらが子どもたちの創造力と独創性を育むと唱えた。本展では絵本の原画が多数展示されている。
壁画は、文字が読めない人々にも新しい社会の理想を伝えるために公共建築に多数描かれ、北川がメキシコに滞在した時代は、フリーダ・カーロの夫ディエゴ・リベラらが活躍していた。北川は壁画制作には携わらなかったが、「いつかは画家である自分もあのような仕事がしてみたくなる。あれこそ生きがいのある仕事だ」と考えていた。 北川はディエゴ・リベラとは最初の滞在時から交流があり、フリーダ・カーロと暮らした有名なアトリエ兼住宅を描いた《赤い家とサボテン》という作品も残している。1955年にメキシコを再訪した際も、ここでリベラにインタビューを行った。 帰国後の北川に壁画制作にかかわるチャンスが訪れたのは、1959年。名古屋のCBC会館を皮切りに、瀬戸市民会館、旧カゴメビル、瀬戸市立図書館と、愛知県内に次々と北川が原画を描いたモザイク壁画が完成した。 また、北川の絵画の鑑賞には、作品そのものを目で楽しむことに加えて、もうひとつの喜びが潜んでいる。「北川は、さまざまな画家の影響を受け、多くの表現方法に取り組みました」と塚田氏。後半の作品では、フェルナン・レジェの強い影響が見て取れるが、そのほかにも、セザンヌやゴーギャンなど、絵画の奥に、北川の心を震わせた多くの芸術家の名前が浮かぶ。そんな考えを頭の中で転がしながら絵の前に立つのも楽しい。
そして最後の楽しみはミュージアムショップ! カラフルなメキシコの民芸品が並び、とてもではないが素通りすることなどできないだろう。世田谷美術館のある砧公園の散策も加えて、充実した秋の一日が過ごせそうだ。 「生誕130年記念 北川民次展-メキシコから日本へ-」 会期:11月17日(日)まで 会場:世田谷美術館1階展示室 住所:東京都世田谷区砧公園1-2 BY NAOKO ANDO