「大蔵省の責任を書かないという選択肢はなかった」山一証券社長は大蔵省から含み損の「飛ばし」を示唆された…“ミンボー専門”の42歳の弁護士が「調査報告書」に込めた思いとはー平成事件史(18)戦後最大の経営破たん
「相変わらず経営陣は『神風が吹いて、株式市場が回復する』と期待していた。しかし、株価は下がる一方。そうすると結果論ですが、救う手立てがあったかどうか、そこで助かったかどうかわかりません。もちろん、それより前に隠ぺいを決めた1991年の『ホテルニューオータ二』と『ホテルパシフィック東京』の2回の秘密会議の時点で、膿を出す決断をしていたら、助かる可能性はあったと思います」(国広) やがて「飛ばし」が山一の経営にどんな影響を及ぼすのか、具体的に話し合われた形跡はなかった。拡大する『簿外債務』の問題は常に『先送り』された。 しかし、「飛ばし」は損失を見えないようにしているだけで、結局損失が消えてしまうはずはなく、ブーメランのように戻ってくることは明らかだった。 歴史に「もし」はないが、1990年代の半ばまでに、損失を公表して処理を実施していたなら、大きな代償を払ったかもしれないが、違った展開になった可能性はあったのではないだろうか。 ■野澤社長は知らされていなかった 東京地検特捜部が山一証券の「損失隠し」をすでに捜査していた1997年6月30日、山一証券の社長の三木は、あろうことか株主総会でこういい放った。 「当社につきましては、法令に違反するような行為は一切ございません」 すでに信用不安が広がり、山一の株価は急落、資金調達も難しくなっている状況で、会場の株主は激怒した。 「万が一、違反があった場合は詐欺で告訴するぞ!」 「仮定の質問にはお答えできません」 「おまえら無能の塊!そんなとこ座って恥ずかしくないのか!」 株主総会のニュースを見ていた東京地検特捜部の幹部は、筆者にこう話した。 「三木は代表権を持っていたにもかかわらず、トップの行平の方針に抵抗しなかった責任は重いわな。まあ、三木は能吏だよ」 東京地検特捜部はのちに行平前会長と三木前社長を「総会屋」への利益供与および、破たんの原因となった「飛ばし」処理で「約2600億円」の「簿外債務」を隠したとして、証券取引法違反(虚偽記載)と商法違反(違法配当)で逮捕、起訴した。
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