欧州で拡大する「右傾化」がアート・文化もたらす影響とは? オランダの新右翼政権が文化行政に与える打撃を追う(文:貝谷若菜)
欧州で相次ぐ政治的変化
この極右の流れは、オランダに限ったことでなはなく、近隣の欧州各国でも同様の動きがある。 ドイツでは、今月1日のテューリンゲン州議会選で戦後はじめて急進右派、ドイツのための選択肢(AfD)が州議会最大勢力となった。当極右政党は 「多文化主義 」への反対を公言している。イタリアでは2022年の総選挙にてメローニ党首率いる極右政党、イタリアの同胞(FDI)が勝利し、現在政権を握っている。 とくに2024年は、5年ごとのEU体制交代、左派連合が逆転勝利したフランス総選挙、伝統的左派政党の労働党が圧勝の英国総選挙に加えて、ポーランド、ポルトガルでの政権交代など、めまぐるしい変化の年である。 フランスでも同様の話題が頻繁に議論されている。同国では今年6月の欧州議会選挙でマリーヌ・ル・ペン氏率いる極右政党、国民連合が同国で大勝する見通しとなったことを受け、エマニュエル・マクロン現大統領が議会下院を解散し総選挙を実施すると発表した。7月に行われたフランス議会選挙の最終結果では、左派の新人民戦線が最多議席を獲得し、極右政権を阻止したが、全体の過半数を獲得した政党がないためフランスは空転議会に直面することになった。 6月に極右政党が下院で最大勢力になる可能性を受けて、フランスの選挙で初めて、エリート大学であるグランゼコールの学長と理事が集まり、「排除、恐怖、他者への拒絶に基づく」政治政策を非難し、「寛容、開放性、知的好奇心、批判的精神といったヒューマニズムの価値を危うくし、高等教育全体を脅かす」と述べ、危機感をあらわにした。(参考:The Art Newspaper) とくにフランスのアート・文化セクターはオランダと同様に公的資金に大きく依存しており、福祉国家モデルが伝統的に公的資金によって芸術文化を支えてきた。そのため、アート・文化セクターは政府の政策や予算の変動に敏感であり、これが芸術活動の持続可能性や創造性に影響を与えることとなる。 各国の政治状況と政府がアート・文化にあたえる影響については様々であるが、オランダの極右政府によるアート・文化分野での制限は、近隣国と比較してもとくに衝撃的だと言える。その背景には、オランダが長年にわたりリベラルで進歩的な文化政策を推進し、国際的なアートシーンにおいても重要な役割を果たしてきたという事実がある。また、オランダは文化的多様性や国際協力を重んじる国としてのイメージが強く、これが極右政権の台頭によって一変することは、他国に比べてとくに目立つ結果となっている。 この厳しい状況下で文化機関やアーティストたちは、どのように革新的なアプローチを見つけるのか、民間の寄付や商業収入による資金集めの多角化が急がれる。しかし、このような状況は、アートの自由な表現や革新を促進するいっぽうで、商業的な影響を強めるリスクも伴う。とはいえ、資金不足は深刻だ。まず第一歩として、個人の寄付や企業スポンサーシップを中心に資金調達をする国々の歴史や事例に目を向ける必要があるのではないだろうか。
貝谷若菜