欧州で拡大する「右傾化」がアート・文化もたらす影響とは? オランダの新右翼政権が文化行政に与える打撃を追う(文:貝谷若菜)
ミュージアムや文化機関からの抗議
この発表をふまえて、すでに国内の主要美術館・博物館、文化機関関係者の抗議活動がみられる。 国立世界博物館(Wereldmuseum)は発表の前日にあたる16日に、抗議活動の一環として17日のプリンシェスダーグから22日までの5日間、アムステルダム、ライデン、ロッテルダムの全館で21%割引を適用した。発表には博物館協会(MuseumVereniging)がValidators社と共同でオランダ国民を対象に実施した、ミュージアムの社会的影響に関する調査のデータ引用し、以下のように述べられている。 美術館は私たちみんなのもの オランダ国民の73%が博物館は必要不可欠であると考えており、85%が博物館は私たちみんなのものであると考えている。これは博物館協会の調査からも明らかである。前年に美術館に行かなかった回答者では、入場料が行かなかった主な理由であった。また、博物館にアクセスしやすい環境を維持するために、政府が重要な役割を果たすと回答している。 特筆すべきは、周辺諸国と比較すると、現在の付加価値税率9%はすでに高いということである。 引用:Museumvereniging また国立世界博物館総館長マリーケ・ファン・ボメルは以下の声明を発表している。 人々は芸術や文化を楽しみ、視野を広げるために当館を訪れます。個人の来館者から学校や研究機関に至るまで、誰もが当館を訪れることで、私たちが人間としてどのように互いに、そして世界と関わっているのか、より広い理解を得ることができます。それはおそらく、これまで以上に重要なことです。そしてそれは、選ばれた人たちだけがアクセスできるものであってはなりません。そのため私たちは、可能な限り幅広いターゲット層に私たちの活動を利用してもらいたいのです。そして、それは入場料を可能な限り低く抑えることで実現できるのです。 引用: Wereldmuseum これに関して、オランダの国会議事堂が立地するデン・ハーグに所在するエッシャー美術館やHuis van het boek(本の美術館)では、17日朝に長さ20mの横断幕「社会への領収書」が掲げられた。 この領収書には、付加価値税の引き上げ対象となるイベントや活動、物品の例がリストにされており、9%から21%になった際の価格が表記されている。 これは、文化、スポーツ、イベント、メディア、書籍、宿泊施設からなる幅広い団体による付加価値税の引き上げに反対する#geenhogerebtw(付加価値税(VAT)の引き上げはナシ)の活動の一環である。 活動のウェブサイトには、活動拡大のためのSNS投稿用素材や活動に対するQ&Aなどが掲載されている。 活動に参加したオランダの作家であり番組司会者として知られるスプリンター・シャボットはこう語る。 この領収書は、アート、文化、劇場、スポーツジム、ホテル、書籍、メディアに対する付加価値税を引き上げるという内閣の非常識な計画を示している。そして、それは大きな結果をもたらすだろう。この付加価値税の引き上げが進めば、400万冊の本が売れなくなり、読まれなくなることを意味する。私たちは数週間前、オリンピックのチャンピオンに声援を送ったが、あなた方はこれで未来のチャンピオンを殺すことになる。これはオランダ人が支払わなければならないツケなのです。 引用:Geen Hogere btw 新政府によるアート・文化分野の税金引き上げおよび活動制限は、今後さらに深刻な影響をもたらすことがほぼ確実である。補助金削減や国際的なアーティスト活動、美術品の返還など、多くの文化機関やアーティストが自由に国際的に活動を行うことが難しくなる可能性が高く、補助対象となる機関が右翼政府の選別により制限されることが懸念される。