「チームラボ 幽谷隠田跡」(茨城・五浦)がオープン。棚田跡が作品になった、夜の森のミュージアム
五浦の海で咲き続ける花
「チームラボ 幽谷隠田跡」はグランピング施設「五浦 幽谷隠田跡温泉」の宿泊エリアに隣接する森の中が会場となる。森の中は明かりも最小限で夜になるとほとんど真っ暗。先が見えないため、少し怖さも感じながら足を踏み入れていく。 まず最初に出会う作品は《具象と抽象》。暗闇の中でグリッド状になった無数の線が蠢き、一瞬自分が立っている空間の輪郭が認識できないような感覚に陥る。作品の中に入っていくと、線の集合が新たに生まれて足元の地面や周囲の木々に広がっていき、たくさんの凹凸や隙間があるはずの空間が不思議と平面の層に囲まれているように見えてくる。 さらに登っていくと少し視界が開け、向こう側に海が見える。続いての作品は、ここから臨む海の中にある《海が立ち上がる時花が咲く - 五浦の海》だ。 森から五浦の海を見下ろすと、海の一部が色づいていることに気がつく。10月8日から新たに公開された本作は、波の動きと呼応して変化する作品だ。海面に波が生まれたときに生命が花開くように色づいた部分が立ち上がり、波が崩れると儚く海の一部となって戻っていく。波が生まれたときだけ束の間咲く花は、波の高さや空の色、風の強さなどによって一度も同じ形をすることがない。途切れることなく連続的に生まれる「海の花」は、生命の力強さと儚さを同時に感じさせる。 森を進んでいくと、木々のあいだをオバケのように青白い光が行き来している。チームラボが設立以来続けている、書の墨跡が持つ深さや速さ、力強さなどを新たに解釈して再構成した「空書」の作品《連続する生命の軌跡》だ。筆のストロークのような儚くも力強い光が、宙をキャンバスにして文字を書くように軌跡を描いている。闇から生まれた一筆が森の中に連続した痕跡を残し、木々と絡まりながら、闇に消えていく。
木々や行き交う人々、森に息づく生き物と呼応する
大きなタブノキに無数の球体がぶら下がった《タブノキに宿る呼応する宇宙》は、人が近づくと、近くにある球体が強く輝いて音色を響かせ、それに周りの球体も連続して呼応することで、木全体がゆっくりと色を変えていくインタラクティブな作品。タブノキは万葉集にも登場するとされる木で、本作では、森で木と木をつなぐネットワークの中心的な存在となる大木を指す言葉として森林生態学者のスザンヌ・シマードが広めた「マザーツリー」をイメージしている。 闇の中で一点に浮かび上がる赤い光は《我々の中にある火花》。歩道からは森の奥で赤い何かが強く光っているということだけが朧げにわかるが、実際には無数の光の線が中心から放射状に広がり、球体を形作っているのだという。私たちの視覚や認識に揺さぶりをかける作品だ。 ここからはしばらくアップダウンのある道を進んでいくことになるが、道中も木々が赤や緑、青や紫と色を変え、幻想的な音とともに異世界に誘われるような雰囲気に包まれる。これは《幽谷の呼応する森》と題された作品で、木々や人、動物などの動きに呼応して光や音が変化する。光の動きによって同じ空間に人がいることを察知できるが、神秘的な森の中にいると、人間以外の存在、あるいは人間と動物以外の存在もここには息づいているのではないかと意識させられる。 幻想的な森のゾーンを抜けると、暗闇の中で1箇所だけ光が集積している場所が現れる。《切り取られた連続する生命》という作品だ。木々の上に散らばった光の粒が次第に集まって放射線に広がっていき、最後に葉や幹がはっきりと見えるほど強い光で一部分だけが照らされる。さながら暗闇から光で森の一部を切り取った写真のように、暗くて見えなかった森の実際の姿が一時的に浮かび上がる。