一度は競技引退も…結婚→出産→ラグビー転向を経て陸上・寺田明日香(34歳)はなぜ「全盛期の自分」を超えられた?「支えてくれる家族がいたので」
なぜ復帰後「かつての全盛期」を超えられた?
一方、寺田のように出産を経て国内トップレベルに返り咲く選手はほとんどいないのも実情。彼女自身、前出の記事で語った「保活問題」をはじめ、女子選手が復帰する上での社会の仕組みやサポート体制の課題を感じているという。 「JISSの『産前産後プログラム』のような身体面の支援は少しずつ広がっていますが、子どもの預け先や金銭面などの課題は大きいですよね。親が近くに住んでいれば頼ることもできますが、そうではない選手はシッターさんをつけるしかない。でも、金銭的な負担は大きいですし、そこで悩む選手もいるだろうなと思います」 加えて、スプリント種目ならではの復帰の難しさも感じたという。 「短距離種目は100%の力を一瞬で出さなければならないのですが、産後の骨盤底筋群や体幹が緩んだ状態だとなかなか発揮できないんですよね。骨盤周りのトレーニングや尿漏れの改善、母乳をミルクに変えたり……なるべく早い段階で準備しなきゃいけないことが多いので、競技復帰にチャレンジしづらいのかなと感じました」 寺田自身、出産の段階では競技復帰することは考えていなかった。だが、産後2年でラグビーを始めたことが、転じて陸上復帰のための“産後プログラム”になっていたという。 「結果的に、ラグビーで追い込んでいたのがよかったんでしょうね。陸上に復帰するという概念がなかったので固定観念にとらわれず、フィットネス系や有酸素トレーニングをガシガシやっていたのが身体の土台づくりにつながったのかなと」
「裏で支えてくれる家族がいたので」
そして何より、夫のサポートや娘の存在が非常に心強い支えとなっていた。 「私も頑張っているけれど、その裏で支えてくれる家族がいたので、他の子より頑張らなきゃいけないよなっていう思いはすごくありましたよね」 陸上に復帰して5年。寺田は今夏のパリ五輪を集大成として、2度目の現役生活を終えることも考えていた。ただ、「最後になるかも」と臨んだ日本選手権は3位で、代表入りは叶わなかった。 それ以降、進退の明言はしていなかったが、10月に東京世界選手権のアスリートアンバサダーに就任。開幕まで1年の記念イベントでは「このままフワッと辞めていくのは心残り」と語った。 「本当はパリまで……と思っていましたが、アンバサダーにも選んでいただきましたし、ここで辞めるより来年に向けて進んでいくのがいいのかなって。東京五輪は無観客だったので、家族に見てもらいたいという気持ちも大きいんです。 でも、今までみたいに世界陸上をガチガチに目指すというスタンスでは考えていません。陸上に復帰していろいろな方にお世話になったので『挨拶巡業』をしたいんですよ。今までなかなか出られなかった地方の大会にも参加して、中高、大学生と走る機会も作っていきたいなと思っています」 佐藤さんも、寺田の言葉にうなずく。 「日本選手権でも感じましたが、皆さんに慕われて、『寺田明日香っていい選手だったね』と思われながら辞めるのが一番素敵ですよね。それは娘にもちゃんと伝わるだろうし、彼女がやりたいところまで頑張るのをサポートするつもりです」 後押ししてくれる家族も力に、また“集大成”の1年が始まっていく。願わくはその姿をひとつでも多く、そして長く見届けたい。 <第1回、2回も公開中です>
(「オリンピックPRESS」荘司結有 = 文)
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