一度は競技引退も…結婚→出産→ラグビー転向を経て陸上・寺田明日香(34歳)はなぜ「全盛期の自分」を超えられた?「支えてくれる家族がいたので」
かつての恩師と雪解け…ラグビーでの成長も実感
そして、寺田は陸上復帰の意思を固めるべく、地元の北海道に向かった。陸上時代、仲違いをして別れた恩師との再会を果たすためだった。 「正直、先生と気まずい別れ方をしている時点で陸上に戻るのは難しいと思っていたんですよね。でも、私がラグビーに転向したのも知っていて、色々と気にしてくれていたんだなあと気づいて。先生に『陸上に戻るって言ったらどう思いますか? 』と切り出したら、『お前、いくつになった? 』って聞かれたんです。『もうすぐ29歳です』と伝えると、『30歳前ならまあまあいけるかもな』と。背中を押してもらえたし、1回目の現役時代のわだかまりを解消できたんですよね」 そして、母校の陸上部員たちと一緒に走り、ラグビーを経たからこその成長にも気づいた。 「全国大会に出るような高校生たちとすぐに遜色なく走れたんです。全然走れなくて辞めたはずなのに、『ラグビーのおかげで脚、速くなってるじゃん! 』って」 ラグビーは陸上競技にはない“止まる”動きや相手に合わせて前後左右に移動することが求められる。 「どこに重心を置けばいいのか、身体のどの部分を意識すればいいのか、いろいろなアプローチを重ねた結果、身体の使い方が上手になったのかなと。『ここを意識すればこう動かせる』というのが言語化できるようになったのが、引退前より走れるようになった要因なのかなと思います」 恩師との和解、陸上への手応え。トラックに戻る覚悟が決まった。 北海道から戻ってきた寺田から、復帰の意思を聞いた佐藤さんはこう問いかけたという。 「自信あるの?」 ――「なかったら、やらないよ」 「その一言を聞いたときにゾクゾクっとして。彼女は本当に自信のあるときしか言葉に出さない性格ですから。ここまで言うならいけるんじゃないの? って思ったんですよね」 彼女の強い言葉は、結果として表れた。2019年6月、寺田は6年ぶりの日本選手権で3位になると、8月に19年ぶりに13秒00の日本タイ記録をマーク。そして9月、日本人女子初の13秒の壁を破る12秒97の日本新記録(当時)を出し、10年ぶりの世界選手権出場を決めた。 寺田は2021年6月、日本選手権で11年ぶりの優勝を飾り、東京五輪に出場。同種目で21年ぶりの準決勝進出を果たした。 女子アスリートは出産したら第一線で活躍するのは難しい――寺田は陸上第一期の記録を凌駕し、その言説を鮮やかに飛び越えたのだ。
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