TOPPANが「デジタル文化財ミュージアム KOISHIKAWA XROSS」をオープン。若冲の幻の名作復元も
博物館法改正によってデジタルアーカイヴの作成と公開が博物館の事業として位置付けられるなど、ミュージアムの世界でDXの機運が高まるいま、印刷大手のTOPPANが新たな試みをスタートさせた。 1990年代後半より文化財のデジタルアーカイヴ事業に取り組み、高品位複製やVR作品の製作を行ってきた同社がオープンさせたのが、「デジタル文化財ミュージアム KOISHIKAWA XROSS®︎」(コイシカワクロス)だ。 TOPPAN 小石川本社の地下1階に位置する 「KOISHIKAWA XROSS」は、「文化財を通じて、過去と未来、人と文化が交差する、感性で楽しむ」をコンセプトに、デジタルで新たな文化財鑑賞体験を提供する施設。「GATE」「VR THEATER」「GALLERY」「EXHIBITION ROOM」の4部屋で構成されている。 鳥居型のLEDビジョンが連なる 「GATE」は同施設のプロローグとなるもので、デジタルアーカイヴの出発点をイメージした光の粒子がデジタル文化財を形づくり、来場者を迎える。 これをくぐると現れるのはVR THEATERだ。全長20メートル、高さ5メートルの大型カーブビジョンが特徴的なこのシアター。ビジョンには16K高精細VR映像が描画され、高い没入感を伴う鑑賞体験が提供される。開設に合わせて上映されるのは、世界文化遺産「金峯山寺の秘仏」のVR作品。VRならではの様々な視点によって、肉眼では見ることができない秘仏《蔵王権現立像》を含む文化財の姿をじっくり鑑賞できる。 86インチの4K液晶ディスプレイが並ぶGALLERYでは、文化財の色や形を記録したデジタルアーカイヴを活用し、インタラクティブな鑑賞体験が可能。また、国宝である 岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風 舟木本》の高品位複製も間近で見ることができる。 110平米のEXHIBITION ROOMは企画展示用のスペース。ここでは、明治学院大学教授・山下裕二と東京藝術大学教授・荒井経監修のもと、1年半をかけてデジタル推定復元した伊藤若冲 《釈迦十六羅漢図屏風》が初公開されている。同作はもともと府立大阪博物場に所蔵されていたが、戦災によって焼失した可能性が高いとされている。現在は白黒写真しか残されておらず、まさに幻の作品だ。 《樹花鳥獣図屏風》や《白象群獣図》のように、若冲独自の「枡目描き」によって制作された同作。TOPPANは今回、白黒写真を高精細スキャニングし、12万以上の枡からなる画面をデジタルで彩色。また立体的な枡目描きの方形を特殊な印刷技術によって表現し、名作をいまに甦らせた。 同社ではこうした展示スペースを布石とし、今後、さらなる大きな展覧会への展開も狙う。また、海外のナショナルミュージアムが所蔵する輸送が難しい日本美術や、西洋の文化財などについてもアーカイヴ・公開していく考えだ。 TOPPANの齋藤昌典代表取締役社長は、「デジタル文化財は観光誘客など、様々な新しい体験価値を生むもの。(コイシカワクロスで)文化財の魅力を十分に堪能してもらいたい」としつつ、そのニーズについてはこう語る。「文化財のデジタル化はニーズが高まっている。新たなノウハウの提案により、ビジネスパートナーシップ構築の場としても活用したい。国や自治体、文化財関係者に来ていただき、文化財の価値を提供し、ビジネスにつなげていきたい」。 同社ではコイシカワクロスを契機に、今年度内に5000人以上の来場者、15件のビジネス創出を目指す。なお、同施設は当面ビジネス利用となり、8月24・25日の限定先行公開を経て、10月より印刷博物館の付帯施設として一般公開される。
文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)