この地球に「生命の材料」を運び込んだのは…小惑星イトカワのかけらから判明した事実が「衝撃的だったワケ」
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」 圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? 【画像】この年、日本隊だけで「1万7000個」も発見した隕石…新事実とは この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。今回は、小惑星イトカワやリュウグウのかけらから判明した、生命誕生に関わる事実をご紹介します。 *本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
小惑星「イトカワ」に生命の材料はあるか?
隕石の中には火星や月から来たことがわかっているものもありますが、多くは小惑星から来たものであると考えられてきました。 小惑星の多くは、火星と木星の間にある「小惑星帯」(アステロイド・ベルト)にあります。そこで小惑星どうしの衝突などによってできたかけらが、軌道を外れて地球に降ってきて、隕石となったーーこの筋書きはもっともらしいのですが、決定的な証拠がありませんでした。 そこで、隕石中の物質ができた場所については、単なる「小惑星」ではなく、より厳密に「隕石母天体」という言葉が広く使われてきました。 2003年5月、日本の内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県)から、探査機「はやぶさ」が打ち上げられました。目的は小惑星に着陸し、そこから試料を持ち帰ることでした。目的地の小惑星1998SF36は、地球軌道と火星軌道を横切る軌道を持ち、「地球近傍小惑星」とよばれるものです。打ち上げ後の8月、この小惑星は「イトカワ」(図「イトカワ」)と名づけられました。 「はやぶさ」は途上、大規模な太陽フレアに遭遇して太陽光パネルが損傷するアクシデントもありましたが、2005年9月、予定より遅れてイトカワを周回する軌道に入りました。同じ年の11月には、着陸時に弾丸をイトカワにぶつけて巻き上った試料をカプセル内に取り込むことを試みます。 結局、弾丸は発射されなかったようですが、はやぶさの着陸時の衝撃で、イトカワの試料が少量ながら採取できたことが帰還後にわかりました。 その後、一時は通信が途絶するなどトラブルが多発したため地球帰還は大幅に遅れましたが、2010年6月に地球大気圏に突入、サンプルカプセルは無事に回収されました。この間のドラマは3本の映画などに描かれています。 小惑星はその外見などからいくつかのタイプに分類されていて、イトカワは「S型」とされています。S型とは、見かけが石のような普通コンドライトに似た石質のものです。試料の分析結果からも、イトカワと普通コンドライトには多くの類似点が見つかり、普通コンドライトの母天体がS型小惑星であることがわかりました。 普通コンドライトは一般に、炭素質コンドライトよりも水や有機物の含量がかなり少ないため、イトカワ試料中の水や有機物の含量も少ないことが予想されていました。実際に有機物分析も行われましたが、アミノ酸量は検出限界以下でした。