「髪に問題を抱え、生きづらさを感じている人がたくさんいる」――ヘアドネーションから見える社会
「必ずしもウィッグを必要としない社会」へ
前出のジャーダック代表・渡辺さんも「数としては大して貢献できていません」と語る。 「人工毛のウィッグを作れば、きっと年に何千個もお届けできるでしょう。でも、僕たちは美容師として立ち上げた団体。みなさんが寄付してくれた髪の毛でウィッグを作り、思いをつなぐのが活動の骨子なのです。そのままだとごみになってしまう切った髪をアップサイクルするということ。必要としてくれる人、喜んでくれる人がいる限り、続けます」 また、ジャーダックが目指すのはウィッグの普及ではないという。 「一見、活動内容と矛盾するように聞こえるかもしれませんが、僕たちが目指しているのは『必ずしもウィッグを必要としない社会』。ヘアドネーションが広まることで、頭髪に問題を抱え、生きづらさを感じている人がたくさんいることを知ってほしい。多くの人は自分が人を差別しているなんて思っていない。でも、無意識に向けられた視線がもしかしたら誰かを傷つけているかもしれない、と自覚することにも意味はあると思います。『髪は女の命』といった一方的な価値観や決めつけ、ルッキズムのために大きなコストをかける必要はなく、自分の表現の一つとしてウィッグを楽しめればいい」 「ウィッグをつけるかどうか『選べる』社会、そして困っている人に寄り添える社会は、誰にとっても生きやすい社会だと思います」
--- 城リユア ライター/エディター。社会課題やライフスタイルに関する記事・インタビューを中心に執筆している。日本のMVや映画などのCG&VFXを制作するスタジオNo.1 Graphics Inc.をベトナムで運営。