日本市場でトリプル安が進む:円安けん制の長期利回り上昇容認が弊害を生み、日銀はジレンマに
長期国債利回り上昇の弊害
他方、日本銀行が自ら演出した長期国債利回り上昇の弊害が、足もとでは意識され始めている。それは、経済への悪影響である。長期国債利回り上昇を受けて、5月30日の株価は大幅に下落したが、これは景気にマイナスの影響を及ぼす。 また長期国債利回りの上昇が、住宅ローン金利(固定型)の上昇、企業向け貸出金利の上昇を通じて、経済活動に悪影響を与える。足もとでは物価高の影響から個人消費の弱さが際立つ中(コラム「円安・物価高で個人消費は未曽有の弱さに(1-3月期GDP):強まる円安の弊害」、2024年5月16日)、金利の上昇が景気減速をさらに助長すれば、日本銀行の金融政策正常化の取り組みにも大きな障害となるだろう。さらに、長期国債利回りの上昇は、銀行が保有する国債の含み損を拡大させることにもある。 一方、日本銀行が長期国債利回りの上昇を抑えるオペレーションを見せれば、円安が加速してしまうリスクもある。このように日本銀行の政策は、円安と長期国債利回りの上昇、株安の間でジレンマに陥っているのが現状だろう(コラム「1ドル157円と10年国債利回り1%:日本銀行はいずれ政策のジレンマに直面するか」、2024年5月24日)。
日銀は量的引き締め(QT)の実施を急がない
それでも、日本銀行は10年国債利回りが1.1%~1.2%のレンジ内で定着すれば、長期国債の買いれ額を増額し、長期国債利回りの上昇を抑えに動くと予想される。それが実施されれば、市場の早期追加利上げ、QT観測は修正されるだろう。 日本銀行は、目標を設定したうえで長期国債の削減を進めるQTの実施を急がないだろう。国債買い入れ策は、為替、株価などの金融市場や経済環境の変化に応じて増減双方向に柔軟に変動させる政策手段として、しばらくは維持するのではないか。短期金利は既に引き上げ方向に動き出しており、経済・金融環境が変わっても、利下げに転換することは容易にはできない。そのため、政策の微調整(ファインチューニング)を担うのは、長期国債の買い入れとなるだろう。 さらに、日本銀行は、短期金利の引き上げと長期国債の削減を進めるQTを同時に進めることには慎重とみられる。長期国債の利回りが急騰するなど、予想もつかない影響が債券市場に及ぶ可能性があるからだ。