ジャガーの「猫殺し」は、プロモーション依存のブランディングの終焉を示している
強みを際立たせよ
ブランディングの本質とは何か。それは差別化と希少性を創造する技術だ。言い換えれば、自分を特別たらしめる要素を最大限に活かすことだ。ハゲかかっているなら、思い切って丸刈りにしろ。長身の女性なら、堂々とハイヒールを履け。眼鏡が必要なら、最大のフレームを選べ。個性を恐れるな、むしろ際立たせろというわけだ。 その意味で、ジャガーの判断は矛盾に満ちている。独自性こそがすべてである超高級車市場に参入しようとしながら、自社を特別たらしめてきた要素を次々と捨て去っているのだ。超高級車の世界では、価格が上がれば上がるほど、その個性は突出したものとなる※6。 わたしの主張は明確だ。ジャガーは、市場を興奮させ、実際に販売できる製品を手にするまで、マーケティングには一銭もかけるべきではなかった。 過去10年で最も企業価値を高めた会社を見てみよう。彼らは、ほとんど広告を出していない。Netflixを例に取ると、時価総額は2014年の約210億ドルから現在は約4,000億ドルへと急成長した。Alphabetに至っては、10年前の約3,900億ドルから、今や2.5兆ドルにまで膨れ上がっている。 これらの企業が取った戦略は明快だ。広告費を削り、その分を製品開発と顧客サービスの向上に投じた。より良い製品を、競合よりも早く、より安価に届けることに注力したのだ。Amazonはマーケティングキャンペーンでeコマースの覇者となったわけではない。48時間以内の無料配送という、一見無謀とも思える約束を実現することで勝利を掴んだ。 他社は別のアプローチを取った。Nvidiaは製造を完全に外部委託。世界で最も急成長する衣料品企業Sheinは、店舗も倉庫も持たない徹底的な軽量化を実現している。 ジャガーにも、まだチャンスはある。このリブランディングを撤回し、優れた製品を中心に据えた戦略で出直せばいい。マーケティングキャンペーンを後付けで考えるのではなく、製品開発を先行させるのだ。象徴的なブランドマークへの愛着が高まっているいま、かつてコカ・コーラが、新製品の失敗を素直に認めて伝統の味に戻したように、ジャガーも原点回帰を宣言する絶好の機会かもしれない。 だが、そのような潔い決断を期待するのは、おそらく無理な相談だろう。リアリティ番組出身のスターや事実を歪める情報が溢れるいまの時代において、企業からは一つの重要な美徳が失われてしまった。それは、「私たちは失敗しました」という謝罪の言葉である。 人生はかくも豊かだ。 スコット
Scott Galloway From No Mercy No Malice