ジャガーの「猫殺し」は、プロモーション依存のブランディングの終焉を示している
視覚的メッセージ
厳しい1年が待ち受け、顧客に見せるべき新製品も手元にない。そんな状況で、ジャガーは選んだ。唯一の健全な要素を「修正」するという道を。 この新しいブランドマークは、まるでジャガーがAIコンサルティング会社として生まれ変わるかのような印象を与える。人間の手を介さず、AIが自動生成したかのようだ。わたしがInstagramで行った、まったく科学的とは言えない調査での、ある回答者の言葉が秀逸だ。「キッチンナイフセットなら、これは最高のロゴになりそう」 企業が持ちうる最も価値ある資産の一つ。それは、見た瞬間に刻み込まれ、ブランドのストーリーを瞬時に語りかける力強いロゴだ。人間という生き物の本質は、視覚的な認識にある。文字による言語は約5,000年、印刷技術でさえたった600年の歴史しかない。 一方、描画や絵画による視覚的コミュニケーションは、ネアンデルタール人の時代にまで遡る。つまり、私たち人類という種の誕生よりも古いかもしれないのだ。人間の脳は、視覚情報を言葉の約6万倍の速さで処理する。MITの研究によれば、わずか13ミリ秒で画像を正確に識別できるという※5。 わたしは、マーケティングの授業でロゴの力を実証する時、こんな実験をする。学生たちに、周辺視野だけを使ってロゴを識別してもらうのだ。優れたロゴは、視野の端でさえも即座に認識できる。ナイキのスウィッシュ、マクドナルドのアーチ、メルセデスのスリーポインテッドスター──これらはその代表例だ。 効果的なロゴには四つの要素が必要だ。意味があること、共感を呼ぶこと、独自性があること、そして拡張性があること。ジャガーの跳躍する猫「リーパー」は、これらすべての条件を完璧に満たしていた。 自然界で、ジャガーほどの強さと機敏さを兼ね備えた存在を見つけるのは難しい。南米のジャングルと砂漠を支配する頂点捕食者であり、その姿は致命的な力と優美さを同時に体現している。静寂の中で素早く動き、背後から跳びかかり、砲弾さえも貫くような顎と歯で獲物の頭蓋骨を粉砕する。 さらには、狩られた時に反転して狩人を狩る唯一の動物という逸話まである(事実ではないかもしれないが、この猫にはふさわしい物語だ)。ジャガーの傲慢とも言える表情は、その実力があってこそのものだ。 旧来のロゴとマークは、ジャガーという動物が持つ力強さと気品を完璧に表現していた。一方、新しいロゴから感じられるのは何か。まるで、「私たちは高給で雇ったMITの優秀な人材に、80万ドルをかけて、カスタマーサービス部門を全てAIシステムに置き換えるよう提案させました」といった、シリコンバレー企業の陳腐な経営方針発表のようだ。 かつての「リーパー」はいま、Type 00のサイドパネルに刻まれた水平線の間の空白部分として、かろうじて命脈を保っているに過ぎない。自動車業界が生み出した最も優れた視覚的メタファーを抹殺することは、株主価値の破壊に等しい。これこそがCMOによる重大な職務怠慢だ。それは、興行不振への対応として、ディズニーがミッキー、モアナ、ダース・ベイダー、エルサを一斉に処刑するようなものだ。同等に愚かで、同等に無意味な行為なのだ。 これは、ジャガーをジャガーたらしめていたすべての要素の否定に他ならない。動物としての優美さとパワーだけでなく、ブランドの持つ英国らしさまでも失われた。Type 00からは、猫の野性的な魅力も、英国の誇り高き伝統も微塵も感じられない。 そして皮肉なことに、「何も模倣しない」と高らかに宣言しながら、車のシルエットはロールス・ロイス・スペクターの面影を宿し、鋭いエッジとラインはサイバートラックを想起させる。これらすべての判断に署名をした面々は、自らのキャリアが猛獣の餌食になっても文句は言えまい。