ジャガーの「猫殺し」は、プロモーション依存のブランディングの終焉を示している
売れない理由
ジャガーが長年抱えてきた問題の本質は単純だ。ブランドが約束することを、製品が実現できていないのだ。1960年代、スウィンギング・ロンドンで輝きを放っていた同社は、1989年にフォードに買収され、現在はインドのタタが所有している。確かに、製造拠点はいまでも英国のコベントリーにあり、形式上は「ブリティッシュ」というブランドの核心は保っている。 品質面では改善が見られるものの、「機械的な悪夢」という汚名は依然として拭えていない。ジャガーに乗ることは、ある種の声明を発しているようなものだ。 「私はギャングスターです。このステータスシンボルを2台も持っています。なぜって? 1台は常に修理工場にあるからです」 スタイルの面でも、現行モデルは伝説的なEタイプをはじめとする往年の名車が持っていた気品を※3、ほとんど受け継げていない。 プレミアムカー市場では、BMWやアウディといった真のリーダーたちの後塵を拝するばかりだ。5万ドル超の価格帯で、誰もが欲しがるような車を作り出せていない。わずかな例外を除けば、その状況は変わっていない。 そんななか、現在のジャガーの経営判断には一定の理がある。経営陣は、一旦会社を縮小し、再出発を図ることを決めた。現行の3モデルの生産を終了し、まったく新しい電気自動車のラインナップへと生まれ変わる。 さらに、プレミアム市場から撤退し、約40万ドルという超高級車市場に活路を見出そうとしている。より小規模ながら利益率の高い市場を狙い、その一環として一部のディーラーも閉鎖するという徹底ぶりだ。 この動きが示唆するものは重大だ。しかし、ジャガーのリブランディングを巡る議論では、ほとんど触れられていない。これは、世界的な所得格差の拡大を映し出す、もう一つの象徴なのだ。 年間約270人のペースで新たな億万長者が生まれる一方で、中流階級──マーケターが「マス・アフルエント(大衆富裕層)」と呼ぶ上位層さえも──は着実に縮小している。ジャガーは、もはや弁護士や歯科医向けの販売に将来性を見出せない。かわりに、起業家や金融業者といった新しい富裕層にビジネスチャンスを見ているのだ。 ただし、「新生ジャガー」の販売開始まで、少なくとも1年の空白期間が生じる。どんなデザインになるのか、どんなメカニズムが搭載されるのか、社外の誰も知らない。マイアミで披露された不恰好なピンク色のType 00スポーツタンクは、所詮コンセプトカーに過ぎない※4。量産される可能性はゼロだ。 私は数多くの自動車展示会で、コンセプトカーを山ほど見てきた。どれほど魅力的に見えようと、結局は労力と資金の無駄でしかない。見栄えのする、使い捨てのマーケティング道具に過ぎない。イヴァンカ・トランプが大統領になる可能性の方が、テスラのロボバンが実際に生産される可能性より高いくらいだ。