10代の頃から漫画を語り合っていた――亡き親友の大作「ベルセルク」を完結に導く漫画家・森恒二の信念
「目の前にある、今できることに集中する」
「ベルセルク」が再開し、出版元の白泉社や森には様々な意見が寄せられた。海外の人も含め、「よくぞ再開してくれた」という好意的な意見が多いものの、中には「三浦先生不在の『ベルセルク』は偽物なので読まない」という厳しいものも。9月末には再開後初の単行本が発売された。 「ナンバリングを継承した単行本が出ることに、監修で関わった自分ですら複雑な想いが湧いてきました。読者に賛否があるのは当然で、全てのファンを納得させる完全な形になりえないのも事実です。でも、もし認められなくても、三浦が精魂込めて残した41巻までを宝物として愛してもらえればいいんです」
森は、「大きな目的を成し遂げるためには、目の前にある現実に一つひとつ取り組むことが大切なんだよ」と、2人で語り合った若い頃を思い出すと話す。 「その想いを凝縮したのが『ベルセルク』の名ゼリフ『祈るな!! 祈れば手が塞がる!!』だったのではないかと、今あらためて感じます」 このセリフは、恐ろしいまでに強い敵を前に戦うことを放棄し、神にすがろうとする戦友を鼓舞するガッツの言葉だ。 「三浦も私も現実的な人間で、ストーリーが浮かばないならとにかく絵コンテを描いて練習するっていうタイプだったんです。目の前にある“今できること”を探し、しっかりやる。でも、わずかでも前に進もうと三浦と励ましあって、お互いプロの漫画家になることができたと思うんです」
三浦建太郎が残したもうひとつの遺産
「ベルセルク」に関わることで、三浦が日本漫画界の未来に残した財産にも気がついた。 「スタジオ我画スタッフたちの高い画力と『三浦先生の世界観を後世に残したい』という強い意志に感銘を受けました。再開した漫画を読んだ方なら感じられたかもしれませんが、スタジオ我画の柱である黒崎くんや杉本くんらは『ベルセルク』をやり切った後、漫画界の中心で輝く存在になりうる資質と情熱を持っています。彼らもまた三浦がこの現世に残してくれた遺産なんです」 生前、「ベルセルク」の連載が終わったら何をするか、三浦と話していたという。 「三浦は、終わったら半年は何もしたくないって言っていました。何もしないのはありえないから、うそつけっていう感じですよ(笑)。その代わり世界一周旅行には付き合うことになってました。だから、僕らがおじいさんになるまで連載は続けないでくれと」 「三浦に言いたいことはいっぱいあります。それは『ベルセルクを再開させたが力不足ですまんな』という後悔ではないし、『なんで自分で決着をつけずに逝ってしまったんだ』という怒りとも違う。『自分にできることはやったよ』という思いです」 やらなければいけないこと、やってはいけないことを丁寧に探りながら前に進む、新生「ベルセルク」の旅路の果てを見届けたい。
--- 本記事はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#昭和98年」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。