10代の頃から漫画を語り合っていた――亡き親友の大作「ベルセルク」を完結に導く漫画家・森恒二の信念
「作者が何を考えていたのか知っている自負はありました。イラストを付けた文章を掲載してもらうかも考えました。しかし、三浦という天才の作品を、旧友の漫画家といえども他者の手で濁らせるようなことはしたくはなかった」 森の迷いを断ち切ったのは、三浦の弟子たちで構成されるスタジオ我画だった。 「絶筆となった第364話を、スタジオ我画のスタッフが仕上げたんです。原稿を見せてもらうと三浦がどのコマを最後に筆を折ったのか、どこから弟子が引き継いだのか、一目では分からないほどの完成度でした」 三浦の思い描いた結末を届けるには、三浦から聞いた筋書きやセリフなどをもとに、スタジオ我画によって漫画にするしかありえないと森は確信する。 「自分勝手ではありますが、三浦が生み育てた『ベルセルク』の完結に関わることは、喪失感を埋めてくれるかけがえのない経験となりました」 森が連載再開への参加を引き受けた理由の半分は三浦のためだという。 「もし何もしなければ三浦は、『さんざん最終回までちゃんと話して相談したのに何でやらないんだよ』と私に文句を言ったでしょうから」と穏やかに笑う。
仲間を常に笑わせようとする 妖精“パック”は三浦自身
「ガッツの相棒に、ふざけて仲間を常に笑わせようとする“パック”という妖精がいます。あのおちゃらけてるパックは三浦自身だよね。天才漫画家でありながら、サービス精神旺盛。 三浦はメジャー志向の漫画家です。“より多くの読者を自分の世界で楽しませたい”と願っていました」
森と三浦の関わりは、ストーリーだけでなく「ベルセルクらしさ」を決定づける細部にまで及ぶ。見る者を釘づけにするガッツの身の丈を超える巨大な剣「ドラゴンころし」も、2人の会話の中で生まれたものだ。 「『ベルセルク』の連載が内定した頃、三浦が『地上で一番怖い生物がヒグマだとすると、似たような怪物を倒すためにはどんな武器が必要かな?』と聞いてきた。『主人公が騎士なら、身の丈より長くてバカでかい剣がいいよね』と答えました。すると、人けのない市営のトレーニングジムで、ウェイトトレーニング用のバーを指さして『森くん、ちょっと持ってみせて』と言うんです」 森は当時、格闘技に打ち込んでいて、183センチ90キロ。その森が20キロほどもあるバーを持ち、三浦に言われるままポーズを取る。 「それを見て三浦が、『巨大な剣を振り回すには、両足を開いて踏ん張る必要があるのか……』、などとつぶやきながら納得顔でうなずく。『とどめを刺すときはこうだよね?』と、身ぶり手ぶりの寸劇のようなやりとりをして、それぞれのキャラクターの体格や動きなどの細部をつかんでいったんです。その頃は、今みたいなカット資料集がなかったんですよ」