「自分にとって大切な人だから」──誰かを支えているあなたへ、命を守る身近なゲートキーパーの輪
後悔やいらだちは「その人が大切だから」
「ringS」運営に関わる瀧本くるみさん(23)も、「参加者の皆さんやスタッフとのやり取りをしていると、ゲートキーパーとしての引き出しが増えていく感じがします」と話す。 例えば、ringSの中で行うワークに、友だちを支えているときの感情を振り返るものがある。仮にもう少しこうすればよかったという「後悔」が60%、支えている相手がよくならないと感じる「いらだち」が20%だとする。その上でその感情の裏にある気持ちを振り返る。すると後悔したり、いらだったりするのは「その人が大切だから」「相手によくなってもらいたいから」ということがわかってくる。瀧本さんは言う。 「そうして自分の感情を一つひとつ書き出してみると、自分の本当の気持ちに気づいて優しくなれたり、私、支え手として頑張っているんだなと自分を許せたり。相手をケアをしているつもりなのに、自分がケアをされていることがありますね。結局、ゲートキーパーをやることで、自分も救われているんだなと思います。ゲートキーパーはどんな感情を持ってもよいのです。なぜその気持ちが生まれたのかを一緒に考えるのがringSです」
瀧本さんが活動を通じて痛感したのは「弱さは強さだ」ということ。 「自分の弱さを認めて抱えながら生きていると、誰かに頼ることができたり、誰かと出会って共感したり、分かち合うことができると思うんです。それがゲートキーパーをする上で強さになるんじゃないかと。特別な何かができなくても、大切な支えたい人のそばにいてあげるだけで十分なんです。弱さを持っているからこそ、弱さを持っている人に目をとめられるのかもしれないですね」
「この子がいるから、私は死なない」 友だちを支える若者たち
日本の自殺者数は、2003年の3万4427人をピークに減少傾向にある。一方で、若者の自殺者数は高止まりしたままで、2020年に自ら命を絶った小中高生は499人。過去最も多い数字となった。 2006年に自殺対策基本法が施行されて以降、行政やNPO法人、専門家などが連携して対策に取り組んできたが、学生や若者への支援は十分と言えない状況にある。 若者が悩みを誰に相談するかがわかる調査がある。〈令和3年度「子供・若者総合調査」の実施に向けた調査研究〉(内閣府)で、落ち込んだ状態から改善できたという回答者(1120人)に、改善のきっかけを複数回答で聞いたところ、トップは「友だちの助け」(56.1%)だった。 そんな背景から石井さんは、大学生を中心に、全国で10~20代の若者を対象にゲートキーパー講座を行い、これまで約2万3000人を育成してきた。 石井さんは言う。 「今の若者は、友だちの異変に気づくチャンスが多いです。例えばLINEのプロフィール文、インスタグラムのストーリーズに誰にも言えないけれど誰かに聞いてほしい本音を書き込んでいたりする。専門家よりも、身近な存在である若いゲートキーパーの方が早く異変に気づく優れたアンテナをもっているのです」