「自分にとって大切な人だから」──誰かを支えているあなたへ、命を守る身近なゲートキーパーの輪
「ご飯食べてる?」「眠れてる?」。友だちへの何げないその一言が、命を救うかもしれない──。悩みを抱えた人の孤立や孤独を防ぐ人のことを、「ゲートキーパー(命の門番)」と呼ぶ。内閣府の調査では、落ち込んだ状態から改善できたという若者の半数以上が、きっかけは「友だちの助け」だったと回答している。その半面、「自分一人で解決しなければ」と抱え込んでしまうケースもあり、支え手の支援も必要だと指摘されている。悩んでいる友だちを支える若者、それを支える団体、それぞれの思いを聞いた。(取材・文:ノンフィクションライター・西所正道/撮影:菊地健志/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
いじめに悩む友だちから電話、出られず無力感
「私が友だちのことを支えてきたのは、自分にとって大切な人だからです。相手によっては、私、率直に言うんです。『あなたに死なれると困るよ』って」 そう語るのは、早野莉子さん(25)だ。早野さんが友だちの相談に乗り始めたのは高校3年生のとき。家庭環境の悪化で精神的に落ち込んだ友だちをずっと支えていた。そういった人を「ゲートキーパー(命の門番)」と呼ぶことを知ったのは、心理学を学ぶために留学したアメリカの大学の講義を受けたときだった。 ゲートキーパーとは、自殺の危険を示すサインに「気づくこと」、悩んでいる人に「声をかけること」、話を聞く「傾聴」、その人が抱える問題を解決するため「(専門家などに)必要な支援につなげる」、あるいは優しく寄り添って「見守る」といった適切な対応ができる人のことを指す。資格があるわけではなく、そういった役割や心構えをもった人たちをゲートキーパーと呼んでいる。
早野さんは友だちの異変に気づくことが多く、そのたびによく声をかけてきた。 「ちょっと元気ないなって感じたときは、〈ご飯食べてる?〉〈眠れてる?〉などとさりげなく聞いています。いきなり〈大丈夫?〉とか聞くと、相手もなんで?って警戒するかもしれないので、何げない会話から始めたりしています」 そんな早野さんにとって、転機となった少し前の出来事がある。留学を終えて帰国した後に受けた、アメリカ在住の友人女性からの「オンラインいじめ」の相談である。 「本来は学生がイベントなどの告知をするために使う大学の掲示板アプリで、彼女を『クサいよね』などと名指しで誹謗中傷する人が現れたんです。大学側は1カ月後に書き込みをやめさせましたが、彼女は深く傷ついてしまいました。新型コロナの影響で外出規制もかかり、精神科を受診することもままならなくなって、不眠が続き、死にたいと言うようになりました」 毎日テレビ電話で連絡をとって「きょう調子はどう?」「ご飯食べた?」と気遣った。彼女が好きな日本のお菓子を送ると、涙を流して喜んでくれた。けれども、日によっては声が暗いときもあり、「何かあった?」「何時でもいいから電話をかけてね」と声をかけた。 「ところが私が電話に出られなかったことがあって、本当に焦りましたね。とりあえずメールして『あと何分で電話できるからね。今は電話に出られないけれど、いつもあなたのことを思っているよ』と。電話できるまでに死んでしまったらどうしようと……。距離がある分、何も彼女の力になれていない無力感にさいなまれていました」