中性子星とブラックホールの中間に位置する “天の川の謎の天体” を発見
重い恒星の寿命の最期に、その中心核が「中性子星」となるのか、それとも「ブラックホール」となるのかは、中心核の質量によって決まると考えられています。ですが、その境界線がどこにあるのか、理論的にも観測的にも正確な位置はよくわかっていません。 今日の宇宙画像 マックスプランク電波天文学研究所のEwan D. Barr氏らの研究チームは、ミリ秒パルサー「PSR J0514-4002E」の詳細な観測を行い、PSR J0514-4002Eに伴星があることを発見しました。興味深いことに、伴星の質量は太陽の2.09~2.71倍であり、ちょうど中性子星とブラックホールの境界線に位置しています。発見者が “天の川の謎の天体(a mysterious object in Milky Way)” と表現している正体不明の伴星は、天文学や物理学において注目されるでしょう。
■中性子星とブラックホールの質量ギャップ問題
太陽のような恒星は、自らの重力で潰れてしまう力と、中心核での核融合反応によるエネルギーの圧力が釣り合うことで形状を保っています。ただし、核融合反応の燃料はいずれ尽きてしまうため、この均衡もいつかは崩れ去ります。核融合反応の圧力が無くなり、星が重力で潰れてしまう現象は「重力崩壊」と呼ばれています。 重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体は「ブラックホール」と呼ばれます。一方で、ブラックホールになる手前で重力崩壊が停止した天体は「中性子星」と呼ばれます(※1)。中性子星はブラックホールの1歩手前で踏みとどまった “普通の物質” の極限状態であり、その組成から直径25kmの “原子核” と例えられることもあります。このため、中性子星自体の性質と共に、どこまでが中性子星の限界であるのかも注目されています。 ※1…中性子星が重力に対抗する力は「中性子のフェルミ縮退圧(中性子縮退圧)」と呼ばれています。また、中性子星より手前でも重力に対抗する力は発生しており、例えば太陽くらいに軽い恒星は電子縮退圧によって生成する「白色矮星」になると言われています。 重力崩壊する恒星の中心核が中性子星となるかブラックホールとなるかは、質量によって決定されると考えられています。しかし、中性子星のような物質の極限状態は、理論的にも実験的にもほとんど理解されていません。このため、中性子星が重力崩壊してブラックホールになる質量の境界線(※2)は、天文学や物理学の大きな未解決問題となっています。 ※2…中性子星の理論上の質量限界は「トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界(TOV限界)」と呼ばれています。 理論的な中性子星の限界質量は太陽の2.2倍であるとされていますが、この数値は研究によって大きな幅があり、2倍以下であるとする推定もあれば、3倍近くとする推定もあります。不完全な理論をもとに数値の幅をこれ以上縮めるのは難しいため、観測によって質量限界を直接見つける努力も続けられています。しかし、観測で見つかった最も軽いブラックホールは太陽の約5倍の質量があり、理論上の境界線を大幅に上回っています。この質量ギャップ問題も、中性子星の限界と同様に天文学上の未解決問題となっています。