親の財布から子どもがお金を盗んだら...子育ての博士が「叱らず、励ます」を選ぶ理由
厳しく叱るよりも、子どもを励ますほうがいい
子どもが何か悪いことをしたとき――物を盗んだり、嘘をついたり、人を騙したりしたとき――ふつう、わたしたち親は、まず怒り、そして、子どもを悪いと決めつけてしまいがちです。しかし、その前に、子どもの側の話も聞いてほしいのです。子どもは、自分が悪いことをしたとは知らなかったのかもしれないからです。それを悪いことだと教えるのが親の役目なのです。まず、どうしてそんなことになってしまったのか、子どもの話をよく聞きましょう。そして、その後で、どうすべきであったのか、それを教えるのです。子どもを悪いと決めつけ、頭ごなしに叱るのは決してよいことではありません。 ある日、お母さんはおかしなことに気づきました。手提げの中に入れておいた財布の口が開いていて、中の小銭が全部消えているのです。家には、お母さんと7歳のメリッサだけでした。お母さんは、メリッサの部屋へ行き、事実だけを聞こうと思いました。 「お財布の中の小銭が全部なくなってるんだけど」 人形遊びをしていたメリッサは、顔を上げました。お母さんは続けました。 「お財布の口が開いていたんだけど。普段は、こんなことないのに。メリッサ、知ってる?」 メリッサは口を開きました。 「アイスクリーム屋さんの車が来て、アイスを買いたかったんだけど、お母さんは電話してて、それで、自分でお金を出したの。お財布の口は開けっぱなしにしちゃったみたい。ごめんなさい」 お母さんは、思わず微笑みを誘われましたが、表情は変えませんでした。メリッサが謝ったのはよいことです。でも、謝るべきことが間違っています。お母さんはメリッサの脇に腰を下ろし、やさしい声で、しかし、きっぱりと言いました。 「お財布はお母さんのものよ。お母さんは、メリッサのお財布から黙ってお金を取ったりしないわ。メリッサも、お母さんのお財布から黙ってお金を取ったら、それはいけないことなのよ」 もし、メリッサがお金を取ったのが初めてのことだったら、お小遣いのなかからお金を返させるようにすればいいでしょう。もし、これで二度目だったら、たとえば、大好きなテレビ番組を見せないことにするのもいいかもしれません(もし、これがメリッサの盗癖だったとしたら、お母さんはカウンセラーに相談するなどして、根本的な解決策を考えなくてはならないでしょう)。 お母さんは、「メリッサを責めているわけではない。でも、無断でお金を取ることは悪いことなのだ」ということをメリッサに教えようとしたのです。これなら、メリッサは、自分のしたことを反省はしても、自分が悪い子なのだとは思わずにすみます。 次にお母さんは、このような質問をして、メリッサにどうしたらいいかを考えさせました。 「メリッサの話は分かったわ。アイスのお金が欲しかったけど、お母さんは忙しそうだったのよね。でも、黙ってお金を取ったのは、いけないことだったわね。どうすればよかったと思う?」 メリッサは考えました。 「お母さんのこと待ってればよかったのかもしれないけど、でも、それじゃアイスクリーム屋さんは行っちゃったわ」 そして、また少し考えて言いました。 「子豚の貯金箱から、お金を出せばよかったんだ」 「そうね」。お母さんは頷きました。 「メモを書いて、電話してるお母さんに見せればよかった」 「それでもよかったわね」 「アイスは買わないことにすればよかった?」 メリッサは、小さな声で聞きました。 「そんなことはないわ」。お母さんは、笑いながらメリッサを抱き寄せました。 「でも、今度からは、お金が欲しいときには、お母さんにちゃんとお話ししてね」 お母さんは、こうして、どうすればよかったのかをメリッサに自分で考えさせました。このほうが、子どもを責めて必要以上に罪悪感を植えつけるよりも、ずっと効果的なのは言うまでもありません。子どもは、自分で考え出したことにはやる気をみせるものですから。
ドロシー・ロー・ノルト著、レイチャル・ハリス著、石井千春訳