「妊娠は待てと言われました」オリンピックに挑戦する女性選手が直面する問題とは?
彼女は当時「産休の取得は私に与えられた権利のひとつです。これは争う余地のないことです。たとえリヨンのような大きなクラブであっても」と綴っていた。「出産はいまだに選手の人生に立ちはだかる障害のひとつです。通常、選手たちは自分が所属するクラブや競技連盟やスポンサーと話し合いを始めるためにも、自分が携わるスポーツにおいて、確固たる地位を確保し、自らの正当性が認められることを期待しています。といっても必ずしも順調に事態が進展しているわけでありません」と、スポーツにおける平等とジェンダーを専門とするコンサルタントで、複数の競技連盟の相談役を務めるマリーヌ・ロムザンは説明する。FIFAが女子選手の待遇改善に着手する2年前の2019年、フランス代表選手のアマンディーヌ・アンリは週刊誌『ガラ』のインタビューで、次のようなジレンマについて語っていた。「私たちはみんなママになりたいと思っています。でも、そのためには1年間サッカーをやめなければならない。その上、長く競技から離れて、その後でハイレベルな選手活動に戻れるとは限らないという難しさもあります」。ロムザンによれば、女子スポーツが普及した今でも、妊娠という問題が解決されていないのは不思議なことではないという。「歴史的に見て、プロスポーツは男性たちによって、男性たちのために作られたものです。女性がスポーツ界に位置を占めるようになったのは非常に最近で、19世紀になってから。当初、医師たちは女性がスポーツを行うなどけしからんと糾弾し、とくに生殖医療の面でのリスクを挙げつらねました。女性たちは自らの身体との関係を「男性化」することで、少しずつスポーツの世界に進出して行きました。高度なパフォーマンスや速さを競うためには身体は鍛える必要がありますが、その一方で「女性らしくあれ」という矛盾した価値観も押し付けられていましたから、メイクもし、ヘアも整えなければなりません...。それなのに妊娠はだめ。なぜなら完全にスポーツの枠から外れる。妊娠した選手は生産性と真逆であり、お金がかかるというわけです」 パフォーマンスはハイレベルなスポーツ選手が常に意識していることだが、産休から復帰した選手たちにとっては特にそうだ。どんな職業でも同じだが、自分が第一線のレベルにあることを証明し、チームや競技連盟やスポンサーのためにも、できるだけ早く再び表彰台に立ってみせなければならない。ボクシングのエステル・モスリーや、円盤投げのメリナ・ロベール=ミション、フェンシングのセシリア・ベルデールはそういった意味で模範を示した。柔道のクラリス・アグベニェヌは2023年に世界チャンピオン6冠を果たしたとき、この勝利は「母性の味。母乳のように、味わい深くて、甘くて、軽やか」と語っていた。こうしたアスリートたちはみな、セリーナ・ウィリアムズ流の「women do it all」のイメージを体現している。セリーナは『ヴォーグ 』に寄稿した手記で「テニスか出産のどちらかを選択するようなことはすべきではない。そういう考え方はフェアではない。もし私が男だったら、こんなことを書く必要さえない」と言明していた。妊娠2ヶ月目でウィンブルドンを制した彼女は第一子出産の数ヶ月後に世界ランキング10位に返り咲いた。