「妊娠は待てと言われました」オリンピックに挑戦する女性選手が直面する問題とは?
産後いじめ
出産から復帰後にスターティングメンバーから外されたと感じている女性たちも多い。カタルーニャのサッカー選手マルタ・コレデラも実際に経験した。昨年10月、困難な妊娠期間を経て、産休から復帰した彼女を見舞った出来事について、日刊紙『エル・ペリオディコ』のインタビューで彼女は次のように振り返った。「普段の練習に参加することができないからと、何をしろというのか、午後は女子チームの手伝いをするように言われ、契約を履行するために夜の7時から9時までそこにいるようにと言われました。ショックでした。私はプロの選手として契約を交わしているのに...。当時、最も筋違いだと感じたのは、チームから外されてユースチームに送られたことでした。論理的ではないし、倫理的でもないと思います」。 ときには災難が後になって降りかかることもある。カナダ人バスケット選手のキム・ゴーシェは妊娠したとき37歳だった。「ずっと母親になりたいと思っていましたが、子供を作る決意をしたのは、キャリアの最終段階を迎えたときでした。世界選手権の後に妊娠すれば、準備万端でオリンピックに臨めるだろうと考えていました。でも妊娠は厳密な科学ではありません。チームは全面的にサポートしてくれました。そのことがトレーニングに復帰する励みになりました」。話がややこしくなったのは、コロナ禍の最中での開催となった東京オリンピックに登録する代表メンバーに彼女が志願したときだ。オリンピック委員会は選手が赤ちゃんを伴ってオリンピックに参加することは認められないと回答した。彼女は授乳かオリンピック出場か、選択を迫られることになった。
「精神的負担は大変なものでした。オリンピックに向けて準備をしなけばならないのに。私が家を空ける28日分の母乳をストックしておくことは不可能でしたし、母乳を空輸で送ろうにも、飛行機も減便されていて無理でした。解決策がなくて絶望的な気持ちになりました。手紙をたくさん書いて、世界中の人たちに訴えました。家族も抗議してくれました。こうした騒動を経て、ようやくオリンピック委員会も折れて、チームがパートナーと娘の滞在費を払ってくれることになりました」。プロスポーツ界全体が一丸となって取り組む必要があると彼女は言う。「長期的視野に立って考えなければなりません。妊娠は怪我とは違います。より強靭な身体で、自分の競技に対するより強い愛を持って戻ってくるための機会なのです」。2020年春、ナントのハンドボールクラブでスキャンダルが起きた。血液検査の際に、事前に通知もなく、自動的に妊娠検査が行われていたことが明らかになったのだ。 「スポーツ選手であろうとなかろうと、他の選手や女性が2度と職場でこのような目に遭うことがないよう、関係者全員が自覚を持ってほしいと思います」と選手たちは公開書簡で述べていた。嘆かわしい出来事だったとベアトリス・バルビュスは振り返る。スポーツ社会学者で『スポーツにおける性差別』(アナモザ出版)の著者である彼女はフランスハンドボール連盟副会長でもある。「残念ながら、クラブ内で起きていることは私たちの管轄ではありません。それでも私たちはハンドボールがより立派な競技となるよう務めています」。ハンドボールはスポーツ界で最初に出産の問題に正面から取り組み始めた競技のひとつだ。2021年には給与が全額支払われる1年間の産休制度を盛り込んだ集団協定が締結された。「数日前にフランス代表チームに会いました。チームには様々な世代のメンバーがいます。これまで歩んできた道のりを実感しました。今の選手たちは妊娠がブレーキになるとは考えていません...」と競技連盟副会長は興奮した面持ちで話す。連盟では女性選手のキャリアのノーマライゼーション実現を目指す一方で、道を逸脱しないよう注意してもいる。「選手にとって、妊娠することがノーマルであるという押し付けになってもいけません」