「妊娠は待てと言われました」オリンピックに挑戦する女性選手が直面する問題とは?
また、加害者が処罰されることなく、長期間にわたって性差別や性暴力に晒されていた女性スポーツ選手が被害を告発するケースも出てきている。2018年にはアメリカ体操連盟専属医師のラリー・ナサールに対する訴訟がメディアで大きく報道され、2020年にはフィギュアスケート選手のサラ・アビトボルの告発本『かくも長き沈黙』が出版され、波紋を呼んだ。こうした勇気づけられる動きも見られるものの、変革の波は女性強化選手の妊娠という問題にまでは及んでいないようだ。サッカーフランス女子代表のアメル・マジュリは、W杯準備のためにチームが集合したクレールフォンテーヌの練習場に代表選手として初めて赤ちゃんを同伴し話題になったが、いまも多くの先駆者たちが困難に直面していることに変わりはない。2021年にスポーツ省直轄の研究グループが実施した調査によると、回答した女性アスリートの61,6%が現役期間に母親になることは難しいと考えている。
いまだに障害
女性陸上史上最多獲得タイトル数を誇るアメリカ人短距離選手のアリソン・フェリックスでさえ、スポーツ選手にとって妊娠検査で陽性結果が出ることは「死神にキス」するに等しいと語っていた。「オリンピックで6回、世界選手権で16回優勝した世界記録保持者の選手にとって、妊娠のようなごく自然な出来事によって選手としてのキャリアが絶たれるなど、どうすれば納得できるでしょう?」TedXカンファレンスで彼女はそう問い掛けていた。スプリンターはスポンサーであるナイキから契約料70%の減額を提示されていたが、選手側からの猛烈な抗議に直面して、スポンサーは結局譲歩せざるを得なくなった。長年バスケットボールフランス代表チームのセンターを務めたイザベル・ヤクブは、移籍先のイタリアリーグで給与の支払いを保留されクラブにいられなくなったとき、「すべてからゼロへ」突き落とされたような気持ちだったという。アイスランドのサッカー選手サラ・ビヨルク・グンナルスドッティルも同様の目に遭っている。彼女は産休を取得する権利があるにもかかわらず、当時在籍していたオランピック・リヨネに給与を減額され、FIFAの紛争解決室に訴えていた。現在ユベントスで活躍するミッドフィルダーは訴えが認められたと昨年春に公表した。実際に女子サッカーでは、2021年以降、全てのクラブに「最低14週間、うち8週間は産後」に取得できる産休制度を設け、その間「契約で定められた給与の最低3分の2」を支払う義務が課せられている。