秋吉久美子さん×下重暁子さん 語り合う「歳を取る」と「今を生きる」 大変な時代を生きる若い人たちに伝えたいこと
下重さんがおっしゃるように、その中で自立して生きていくには、収入を確保する必要がある。今、「親ガチャ」っていう言葉もありますけど、それってやっぱり経済格差に根ざした閉塞感からきていると思う。 家族を持つなんてとんでもなく大変だから、少子高齢化になっちゃうわけじゃないですか。どこから解決していいかわからないぐらい大変。 下重 確かに、今は心を伴わなくなってしまいましたね。心ではなく、お金が伴っていればいいという価値観になってしまった。
マテリアリズム(物質主義)って言うのかしら? 今や、人間が物質の扱いを受けている気さえしますね。人間の使い捨て。これはもう大問題で、経済から何から全部見直さなければいけない次元の話じゃないかしら。 秋吉 これからの時代を担っていく人に対して、私たちの世代が今まで生きてきたうえで得たことを知恵として授けられれば、力になれればと思ったりもします。 それにもかかわらず、うまくやれなくて申し訳ないという思いがあるの。母を葬ったときと一緒です。 だから、「一緒に考えさせてください」「一緒に心を痛めています」ということですよね。
幸い、今はまだ「どうしようか」って軌道修正する余地が多少はあるんじゃないかな。だけど、戦争に向かったらもう終わり。猶予期間をいただいている間に、おのおので考えて、いい方向に持っていかなきゃいけないんじゃないかなって……。 下重 それは私も同感、私自身が戦争体験者ですから。私が小学校3年生のときに敗戦して、うちの父は陸軍将校でしたから、それこそ食い扶持から何から全部うしなって。大人たちは180度、言うことが変わった。
何があっても戦争だけはしてはいけない。これだけは若い人にどうしても引き継いでいかなければ。その思いを引き継いでいくのも歴史なんですよ。 秋吉 もうじき終戦から80年が経とうとしているけれど、世の中が良い方向に向かっているとは思えません。物理的にも、精神的にも。その中をどうやって生きていくか。 下重 そのための道をみんなで考えるためには、やっぱりコミュニケーションは欠かせないでしょうね。心を取り戻して、お互いに損得ではない部分で、対話を重ねていく。世代を超えて溶け合わなきゃ。価値観が混ざり合うっていうことですね。
【前編】数十年経った今もなお「母を葬る」ことができない
吉田 理栄子 :ライター/エディター