伝統の嘉穂劇場コロナで経営難 報道陣大挙した“おふくろさん騒動”振り返る
登録有形文化財(建造物)で90年の歴史を持つ福岡県飯塚市の「嘉穂劇場」の運営法人が解散することが17日に決まった。昨年から続くコロナ禍にあって公演やイベントのキャンセルが相次ぎ運営が深刻な打撃を受けたという。木造2階建の芝居小屋で、明治期から昭和初期に筑豊地方に建築された劇場建築の唯一の遺構だ。今後は飯塚市に所有権を移し新たな運営主体のもと再開を目指す。そして2007年、この由緒ある劇場に東京から多くのマスコミ、メディア関係者が押しかける出来事があった。いわゆる森進一の“おふくろさん騒動”だ。嘉穂劇場が全国のニュース番組、ワイドショーに登場したあの場面を振り返りたい。
無断の改変バージョンに作詞家・川内康範氏が怒り
芸能界を揺るがせた“おふくろさん騒動”は作詞家・川内康範氏が作詞、歌手・森進一が歌唱した名曲『おふくろさん』に、森が川内氏に無断でセリフ入りの前奏パートを付けて歌唱したことが問題となって起きた。発端は06年大晦日の第57回NHK紅白歌合戦。森は『おふくろさん』を歌唱したがイントロ前に「いつも心配かけてばかり いけない息子の僕でした 今はできないことだけど 叱ってほしいよ もう一度…」というセリフ付きのオリジナルではないバージョンで歌唱したのだ。実はこの“改変バージョン”は騒動の起きる30年前、1977年に大阪で森が行ったショーで初披露されており森としてはその後もたびたびこのバージョンで歌唱してきた経緯があった。しかしながら無断で改変していたことについて川内氏はあらためて憤り、年が明け07年2月に「森には(おふくろさんを)歌ってほしくない」と著作権侵害を訴え、森も同曲封印を宣言。一連の流れをメディアも「森進一が作詞家とバトル」と報じ、芸能界を騒がせる大事となってしまった。 そんな騒動の渦中にあった07年3月11日、筆者は福岡でコンサートを行う森進一を直接取材するため飛行機とローカル線を乗り継いで飯塚市の嘉穂劇場へ向かった。実はこのとき、わずか3日前の3月8日に川内氏の要請を受けたJASRACが森に改変版歌唱禁止の処分を下していた。作詞・作曲・編曲の権利は著作権法による保護の対象となるが、歌手には著作隣接権(創作者ではないが著作物の伝達に重要な役割を果たす実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利)のみが認められる。JASRACとしては“改変バージョン”は著作権侵害にあたるとして歌唱を禁止するがオリジナルのバージョンについてはそのまま歌う権利を認めるという判断だ。果たして森はどうするのか?