物忘れや記憶力低下…認知症なのか年なのか、どう見分ければいい?【第一人者が教える 認知症のすべて】
【第一人者が教える 認知症のすべて】 明けましておめでとうございます。年末年始はゆっくりおやすみできたでしょうか? 実家でご両親やごきょうだい、懐かしい友人らと久しぶりに過ごされた方もいることと思います。今年も認知症に関する情報を基礎的なものから最新のものまで、わかりやすくお伝えしていきたいと思っています。 もし自分が認知症になったら…どこまで自覚できるのか? 講演会などでよく受ける質問といえば「物忘れや記憶力低下が認知症の症状かどうかは、どうやって見極めればいいのですか? 普通の老化とどう違うのですか?」というものです。年を取ると誰でも物忘れをしやすくなるし、新しいことを覚えにくくなる。80歳を超えたら認知症でなくても半分くらいの人、85歳超では3分の2くらいに物忘れが見られるともいわれますから、改めてそれが生理的現象か、病的なものかとなると、迷いますよね。 メディアでよく取り上げられるのが「昨日の夕食に何を食べたか思い出せないのは正常な物忘れ。食事をしたこと自体を忘れていたら病的な物忘れ」というもの。ただ、こんなふうに比較例を出せるケースはある程度症状が進んでから見られるもので、「物忘れが増えたけど、これって正常なの?」と迷っている段階では、もっと微妙な違いしかなく、判断がつきづらい。だから正常か病気かと迷うわけです。 よく私が言うのは、「いざ思い出そうとしたときはパッと出てこないけど、ヒントを出されると思い出す」という場合は、ど忘れであって、心配しなくていい物忘れ。また、人には得手不得手があります。私自身で言えば、人の顔を覚えるのは得意ですが、名前を覚えるのは昔から苦手。お目にかかった方の名前が出てこなくても、自分はそういうタイプだからと思っています。
心配になったら「頻度」「程度」「広がり」の3つに注意
物忘れが記憶力の問題ではなく、注意力の問題、ということもある。 またもや私の例ですが、枝豆を茹でているときに電話がかかってきたことがありました。短い電話ではありましたが、切ったときにはすっかり枝豆のことを忘れていました。気がついたときには、湯が煮立ち、枝豆がふにゃふにゃになっていました。 皆さんも同様の経験はありませんか? 仕事が忙しかったり、ストレスが大きかったり、疲れていたりしても、注意力は散漫になり、うっかりミスが頻発しますよね。これらが認知症による物忘れでないことは、大いに納得していただけることと思います。 ただし、「この物忘れ、以前とは違う」と感じたら、3つの点に注意してみてください。それは頻度、程度、広がりです。 他のことをやっているうちに鍋を火にかけていたことを忘れて鍋を焦がしたり、2階に物を取りに行ったはいいが何を取りに行ったのだったかを忘れたり、そういうことはあってもいいですが、前より頻回になっていないか。友人との大切な約束をすっぽかす、会社の重要な会議を忘れるなど、「何を取りに行ったか忘れる」レベルではない、程度が重い物忘れになっていないか。 さらには、物忘れだけではなく、「言葉に詰まる」「しゃべりづらい」「歩きづらい」「顔の表情が乏しくなった」など、「以前とは違う」が他のことにまで広がっていっていないか。普通に使えていたテレビのリモコンや洗濯機、掃除機など家電の操作がわかりづらくなった、という場合も注意を払いたい。 頻度、程度、広がりに変化があると感じたら、速やかに認知機能を診ている医療機関を受診してほしいと思います。周囲が「そんなに気にすることないよ」と言っていたとしても、ぜひ受診を。 不調に真っ先に気がつくのは自分です。お腹がチクチク痛い、頭痛がするなど、どんなことでもそうですよね。認知症の症状にしても同じです。「もし認知症と診断されたらどうしよう」と不安になって、受診をためらってしまうことでしょう。その気持ち、とても理解できます。 しかし今は、認知症発症前、あるいは発症しても軽症のうちに投与すれば、発症や病状の進行を遅らせられる薬が登場しています。しっかりしたエビデンス(医学的根拠)のある予防策も発表されています。 これからも毎日有意義に過ごすため、元気なうちに検査を受けて、必要なことを、適切なタイミングで始めてほしいと思います。 実家に帰省し、親御さんの様子が心配になった読者の方においては、私がよく使う言葉、「早期発見、早期治療ではなく、早期予見、早期予防の時代」をぜひ伝えてください。 (新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)