これぞ完全無欠のフェラーリ GTC4ルッソは、どんなスポーツカーだったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
フル4シーターのフェラーリはフェラーリだったのか?
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2016年9月号に掲載されたフェラーリのGTC4ルッソのリポートを取り上げる。ロング・ルーフ・デザインやフェラーリ初の4WDを採用したフル4座の意欲作FFがフェイスリフト。車名もGTC4ルッソと改められた。試乗場所はイタリア北部のバカンスが始まったばかりのアルプスの山々だ。 【写真11枚】この先にプロサングエの姿が見える! GTC4ルッソはどんなフェラーリだったのか? 詳細画像で確認する ◆ロング・ルーフ・スタイル GTC4ルッソの前身であるフェラーリFFを初めて見たのはデビューした2011年のジュネーブ・モーターショウのときだった。その特徴的なスタイリングに衝撃を受けたことをいまでも覚えている。 612スカリエッティからバトンを受けたFFは、456GT以来、20年に亘って4シーターに用いられてきたファストバック・スタイルを捨て、1962年に登場したブレッド・バンと呼ばれる250GTのレーシング・カーを彷彿させるかのようなロング・ルーフ・スタイルで登場した。もちろんそれは、フル4座のGTカーとして実用性を高めるために他ならない。その甲斐あって、後部に乗降用のドアがないこと以外、ポルシェ・パナメーラにも勝るとも劣らぬ居住空間と荷室の広さを手に入れることに成功する。 フェラーリとしては初めて4WDを採用したのもトピックだった。PTU(パワー・トランスファー・ユニット)と呼ばれる軽量であることを主眼として開発された4WDシステムは、エンジンの出力をトランスファーを介して前後輪に振り分けるという有り体なものではなく、前輪の駆動力はエンジン前方から後輪用とは別に取り出すという、これまでにはない独創的な機構だったのである。 アンヴェールされたFFを見て、フェラーリが採った攻めの姿勢に感銘を受けた。しかしその一方で、いろいろな要件を盛り込みすぎると逆にコンセプトがブレてしまい、クルマの良さが発揮されないことが多々あること、そして、ここまでの万能さを求めるなら、いっそ清水の舞台から飛び降りてSUVにしてしまってもよかったのではないかという思いが頭をよぎった。もちろん、SUVはおろか、4ドアすら作らないとフェラーリが公言しているのは知っているが、もしかしたら、顧客もそう望んでいるのではないかと。 あれから5年、その間、残念ながらFFに乗る機会に恵まれず、モヤモヤとした思いは晴れることがなかった。そして今回の試乗会を迎えたのである。 ◆エンツォ・フェラーリを上回る GTC4ルッソのステアリングを握り、ブルニコの街を抜けて最初に感じたのはクルマが小さく思えたことだ。基本的な骨格を共有するFF同様、全長4.9m、全幅2mと、けっこう大柄だから、道幅の狭い道で対向車とすれ違うときなどにはそれなりに気は使う。しかし、そういった状況以外では、大きさを持て余すことはない。逆に、大きなことを忘れて、想像以上にコーナーのインに着き過ぎてヒヤッとすることが少なくなかった。 取材当日はすでに7月に入っていたため、バカンスに訪れた観光客で交通量は驚くほど多く、またサイクリングを楽しむ自転車乗りたちの影響で、流れもゆっくり。ところどころで渋滞もあった。イタリアに来てまで渋滞かよと人間の方はグズりそうになったが、GTC4ルッソはまったくグズるそぶりをみせない。6.3リッターV12はエンツォ・フェラーリを上回る690馬力を発生。そんな高出力ユニットにもかかわらず、アクセレレーターの微妙な操作に対してもギクシャクすることはない。同じく躾のいいデュアル・クラッチを介して、1km/h、2km/hといった細かい速度調整を行うことも可能だ。 試乗会場の周辺はスキー・リゾートとしても有名で、2000mを超える山々にはゲレンデとリフトがあちらこちらに散在する。冬季に降る雪の影響なのか、路面の状況はあまり良くない。しかし、GTC4は荒れた道を難なくクリアしていく。スポーツカー相応の硬さはあるものの、路面からの入力はその大小にかかわらず角が丸められており、不快な印象は受けない。クルマの姿勢も終始フラットだ。 ◆完全無欠のフェラーリ キャンピング・カーが別のルートへ逸れると同時に、右足に力を込める。0-100km/h加速3.4秒とFFよりもコンマ3秒速くなった加速性能を思う存分楽しむことは叶わなかったが、その片鱗は垣間見ることができた。FFを30馬力上回る最高出力を発生する8000rpmを超えてレヴリミットの8250rpmまできれいに伸びる。そんな高回転域以上に好感度が高かったのは中回転域でのトルク感。2速が中心で、コーナーの直前でようやく3速に入るか入らないかというつづら折りのワインディングでは、最大トルクを発生する5750rpmを挟んだ3000~6000rpmあたりを上手に使った方が、気持ちよく、そして速く走れる。 エグゾーストに装着された新しいバイパス・バルブにより、スロットル開度が小さいときの音量が従来よりも抑えられた。これはGTカーとして求められる性能を再考した結果の選択だという。室内の遮音性が高められたこともあって、街中を流しているときの静粛性はサルーンに勝るとも劣らない。もちろん、ひと度フルスロットルをくれてやれば、もはやフェラーリでもこのV12でしか味わえなくなった自然吸気特有の音が響き渡る。ただし、圧縮比を12.3から13.5へと上げるなど高効率化が図られたトレードオフからか、音質はひと昔前と比べると透明さが若干薄れたように感じた。しかし、それでもなお無駄にアクセレレーターを踏みたくなるほど、魅力的なサウンドであることに変わりはない。 ドロミテ山群の裾野を縫うように走るワインディングを駆け巡る。次々と現れるコーナーをGTC4ルッソは難なくこなしていく。気持ちいいほど鼻先が素直に入り、旋回能力も秀逸。タイトコーナーでも3mという長いホイールベースを感じさせないほどクルンクルンと身軽に向きを変える。出口が見えたところで強めにアクセレレーターを踏み込むと、次のコーナーへ吸い込まれていくように加速。ヨー(重心を通る縦軸を中心にクルマが回転しようとする力)が残っているにもかかわらず、タイヤが横滑りする気配など微塵もない。路面を掴んで離さないというよりも、まるでレールの上を疾走しているかのような安定感なのだ。GTC4ルッソには、PTUevoへと進化した前輪駆動システムと電子制御式リア差動制限装置のEDiff3による4輪トルク・ヴェクタリング、F1-Trac(トラクションコントロール)、SCM-E(可変ダンピング・システム)といったFF譲りの運転支援装置に加えて、F12tdfに次いで後輪操舵機構が新たに採用された。これらをすべて連携させることで、圧巻のハンドリング性能を実現しているのだ。ただ、あまりに制御が緻密過ぎて、コーナリングのどの段階でどの機構が役立っているのかはまったくわからない。はっきりしているのは、GTC4ルッソではドライバーが労せずして高い操縦性能を手にできるということだ。 今回GTC4ルッソに乗って、私はFFを初めて見たときから大きな勘違いをしていたことに気が付いた。フェラーリはFF、そしてGTC4ルッソを単に高い実用性と利便性を備えたクルマにしたかったわけではない。高い実用性と利便性を備えたフェラーリを造りたかったのだ。フェラーリであることは、すなわちSUVであることも4ドアであることも許されない。もちろん仮想敵はパナメーラだったり、レンジローバーだったりするのかもしれないが、そんなライバルたちを欲しがるユーザーを取り込めるフェラーリであることに存在意義があるのだ。しかも、ロング・ルーフ・スタイルや4WDといったGTC4ルッソに盛り込まれた要素はいずれも、このクルマを引き立てることに役立っている。コンセプトにブレはない。GTC4はある意味で完全無欠のフェラーリなのだ。 文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=フェラーリ ■フェラーリGTC4ルッソ 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4922×1980×1383mm ホイールベース 2990mm トレッド(前/後) 1674/1668mm 車両重量 1920kg(1790) エンジン形式 V型12気筒DOHC48V直噴 排気量 6262cc 最高出力 690ps/8000rpm 最大トルク 71.1kgm/5750rpm 変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル サスペンション(後) マルチリンク+コイル ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク タイヤ 前/後 245/35ZR20 95Y/295/30ZR20 105Y 車両本体価格(税込み) 3470万円 (ENGINE2016年9月号)
ENGINE編集部
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